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青春18きっぷから見たJR旅客会社の現状

8000円はどのように配分されるのか

 2007(平成19)年4月1日、JRが発足してから20年を迎える。これを記念してJR旅客会社6社は2月20日から3月31日までの間、青春18きっぷを8000円で売り出すこととなった。青春18きっぷの価格は通常1万1500円だから、3500円もおトクとなる。
 ここで青春18きっぷについて説明しておこう。このきっぷは1人で5回または5人までのグループが1回、JR旅客会社の全線の普通列車に1日好きなだけ乗ることができる。年間を通じて発売されているのではなく、学校の休みに合わせ、春、夏、冬の3シーズンだけ売り出され、利用期間にも制限が設けられているので注意が必要だ。
 ちなみに、「青春18」とはこの種のきっぷを利用する人たちの年齢が若いということから命名され、「18」とはその中心である18歳を指しているのだという。とはいえ、これは単なるネーミングであり、購入に際しては年齢、職業、性別などの制限は一切ない。
 ところで、8000円の青春18きっぷを購入したとして、売上はどのようにJR旅客会社6社に配分されるのだろうか。
 最も単純な方法は販売した会社が売上を総取りしてしまうことだろう。たとえば、JR東日本の東京駅で購入すればJR東日本に8000円の売上が計上されるという具合にだ。
 とはいえ、このきっぷの特徴はあくまでも「旅客鉄道会社線全線に乗車可能」という点にある。東京駅で購入した人がJR東日本の路線だけで使用するとは限らない。JR旅客会社6社が共同で販売しているのだから、売上を仲良く分配していると考えたほうがよいだろう。
 実際、青春18きっぷの売上は実際の利用動向を踏まえて分けられるという。だが、回収したきっぷの磁気面すべてに利用した経路が記録されているとは限らないだろうし、いくらコンピューターを使って計算するとはいえ、結構な手間を要する。8000円の売上しかないのに、算出に数千円も要していたとしたら商売としては面白くない。
 もう一つ考えられるのは、JR旅客会社6社で取り決めた計算式をもとに配分する方法だ。厳密な数式は秘密事項だろうから、ここは『平成16年度 鉄道統計年報』(国土交通省鉄道局監修、政府資料等普及調査会、2006年3月)に掲載されている2004(平成16)年度のデータから推測することにした。

旅客営業キロと輸送人員をもとにすると公平さに欠ける



 表をご覧いただきたい。筆者がまず考えたのは旅客営業キロをもとにした配分方法である。最も多くの売上を得られるのはJR東日本で3009円だ。反面、最も旅客営業キロの短いJR四国といえども342円を手にすることができる。
 恐らく、このような分け方ではJR東日本は不満に違いない。旅客営業キロと輸送人員とは比例していないからだ。自社の路線には大勢の利用客が乗っているのに、それに見合った収入が得られないという論理である。
 これはもっともな考え方だから、輸送人員をもとに配分してみよう。本来ならば、正確な輸送人員を算出するには普通列車だけの利用者数を調べなければならないのだが、残念ながら『平成16年度 鉄道統計年報』にはこのような数値が掲載されていない。やむを得ないので、JR旅客会社6社とも普通列車以外の列車に乗っている利用客の数を無視してそのまま算出することとした。すると、JR東日本は8000円のうち、68%に当たる5443円を獲得することができることが判明する。
 今度はJR東海から横やりが入ることだろう。旅客営業キロで配分していれば789円を手にできたのに、輸送人員をもとにすると464円とほぼ4割も売上が減ってしまうからだ。
 売上の配分を決めるのだから、JR旅客会社6社の旅客運輸収入の比率に応じて配分してはいかがだろうか。算出の結果、JR東海は2341円を得ることができる。輸送人員で見ていたときの464円と比べると実に5倍もの金額だ。
 旅客運輸収入を基準とした分け方とすると、JR西日本の担当者は頭を抱え込んでしまいそうだ。何しろ、同社が手にすることができる金額は1619円。JR東海よりも695円も少ないからである。JR西日本はJR東海に対し、旅客営業キロで2.5倍、輸送人員で3.6倍も上回っているのにもかかわらず、これではあまりに非情だ。JR東海の旅客運輸収入の大多数は特急券を購入する東海道新幹線の利用客から得ているのでなおさらだろう。

輸送人キロを基準に配分するのはよいのだが、まだ問題が……

 筆者が着目した指標は輸送人キロだ。この指標は輸送人員×利用客1人当たりの平均乗車キロから求められる。輸送の規模を示すと同時にその質も推し量ることのできる重要な数値だ。
 輸送人キロに基づいて配分するとJR西日本は1735円を得ることができる。JR東海よりも68円上回ることができた。
 残る4社への配分を見ても妥当だと感じられる。しかし、JR四国の取り分が50円というのは少なすぎはしないだろうか。何しろ同社の初乗り運賃である160円のわずか3分の1以下だからである。もしも青春18きっぷをJR四国線内で使われてしまったとしたら、同社は大打撃を被ってしまう。同様に初乗り運賃が同額のJR北海道も迷惑に違いない。JR発足20周年という謝恩価格だったとしても困った事態だ。いや、JR発足20周年だからこそ問題なのである。
 JR北海道、JR四国、JR九州の3社は経営基盤が弱い。2004年度にJR北海道は282億4217万3000円、JR四国は78億1225万7000円、JR九州は40億7450万5000円の営業損失を計上している。各社の経営が破綻しないよう、20年前にJRが発足した際、国は3社に経営安定基金を与え、その運用益を営業損失の補填に充当するよう定めた(旅客株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律第十二条、附則第七条第一項)。経営安定基金の額はJR北海道が6822億円、JR四国が2082億円、JR九州が3877億円である。
 筆者は、JR旅客会社6社の営業損益や経営安定基金を考慮してハンディキャップを設けようと試みた。つまり、JR北海道、JR四国、JR九州の3社の取り分を増やし、その分をJR東日本、JR東海、JR西日本の3社で負担してもらおうという案だ。しかし、どの会社も納得できる数式を筆者は思いつくことができなかった。きっとJR旅客会社6社の間でも結論を出すことはできないはずだ。なぜなら各社の格差があまりにも激しいからである。
 青春18きっぷの売上をどのように配分しているのかを考えるだけで、おぼろげながら現在のJR旅客会社6社が置かれている経営環境を理解することができた。この春は国鉄の分割、民営化とは何だったのかを頭の片隅に置きながら、普通列車にお乗りになってはいかがだろうか。

路面電車とはどういう乗り物なのか

人気者の路面電車、敵役の地下鉄

 路面電車は人に優しい乗り物だ。停留場にはあまり段差がないから気軽に乗り降りできるし、車内には気取ったところもない。その土地ならではの個性に満ちあふれているし、車両の形態もバラエティーに富んでいる。
 いっぽう、鉄道愛好者はともかくとして地下鉄がお好きという方はどのくらいいらっしゃるだろうか。地下のホームに降りなければならないから乗り降りはしづらいし、駅構内も車内もどこかよそよそしい。土地ごとの差異はあまりないし、車両の形態は画一的だ。莫大な建設費を償却するためとはいえ、概して運賃が高額な点もいただけない。
 2007(平成19)年1月24日(木)、京都市は交通社会実験を実施した。実験では今出川通に専用レーンを設けて同市交通局のバスを走らせ、路面電車を走らせた場合に道路交通にどのような影響を及ぼすのかを調べたという。結果は3月中にも発表されるそうだ。
 特筆したいのは京都市交通局は1978(昭和53)年10月1日に路面電車の運行を廃止し、1981(昭和56)年5月29日に地下鉄を開業させたという点だ。つまり、路面電車は用済みだ判断したにもかかわらず、再度必要だと考えるようになったのである。別れた恋人のことが忘れられないという状況はよくあることだが、路面電車に対する京都市の態度も似たようなものなのかもしれない。

輸送力は地下鉄の圧勝

 今回は路面電車と地下鉄とを冷静に比べてみたい。例によって参照するのは『平成16年度 鉄道統計年報』(国土交通省鉄道局監修、政府資料等普及調査会、2006年3月)のデータである。比較に当たり、路面電車のサンプルとして広島電鉄の広島市内軌道線(本線、宇品線、江波線、横川線、皆実線、白島線の総称。以下広島電鉄)19.0kmを、地下鉄からは延長14.8kmの南北線が開業している仙台市交通局(以下仙台市営地下鉄)を取り上げた。
 まずは2004(平成16)年度の輸送人員から見ていこう。広島電鉄は3878万5000人、仙台市営地下鉄は5471万5000人と仙台市営地下鉄のほうが1593万人も多い。これだけでは判断できないので、旅客輸送密度(旅客営業キロ1km当たりの1日平均旅客輸送人員。求め方は、年間輸送人キロ÷営業キロ÷365)で比べてみよう。広島電鉄は1万5713人で仙台市営地下鉄は5万4413人だ。
 ここで、なぜ広島電鉄と仙台市交通局を取り上げたのかを明かそう。輸送人員という観点から見ると、広島電鉄は全国の路面電車中最大、いっぽうの仙台市営地下鉄は全国の地下鉄中最小の数値をそれぞれ計上している。にもかかわらず、広島電鉄の輸送実績は仙台市営地下鉄の足元にも及ばない。地下鉄といういわゆる普通鉄道の輸送力がいかに大きいかがこれでおわかりいただけただろう。

路面電車は運転事故が多い

 今度は運転事故面を取り上げて比べてみたい。
 広島電鉄の運転事故件数は9件、死者数は0人、負傷者数は11人(うち乗客は7人)である。内訳を見ると、車両衝突事故が1件で負傷者は3人(同3人)、車両脱線事故が1件で負傷者は0人、道路障害事故(道路を通行する自動車や歩行者と衝突あるいは接触した事故)が6件で負傷者は7人(同3人)、人身障害事故(車両の運転によって人の死傷を生じた事故で、車両衝突事故、車両脱線事故、車両火災事故、踏切障害事故、道路障害事故のいずれにも該当しないもの)が1件で負傷者は1人(同1人)だ。
 2004年度に広島電鉄の列車(正確には車両。軌道法では列車という呼び名は存在しない)が走行した距離は362万3906kmだった。つまり、運転事故は列車が40万2656キロ走行するごとに起きており、もっと細かく見ると41日に1回発生していることになる。
 これに対して仙台市営地下鉄の運転事故件数は人身障害事故が1件だけで負傷者数は1人(乗客の負傷者数は0人)だ。1件だけなのだから、運転事故は年間の走行距離である173万766kmを走行するごとに起きていることになり、計算するまでもなく366日(2004年は閏年)に1回運転事故が発生すると考えられる。
 仙台市営地下鉄は広島電鉄に比べ、運転事故が起きるまでの走行距離が4.3倍、日数で8.9倍も長い。広島電鉄の名誉のために付け加えると、運転事故が多いのはこの会社の体質に問題があるからではない。表のとおり、路面電車は他の形態の鉄道と比べ、運転事故件数が突出して多いのだ。



 路面電車は道路上を走るために十分注意していても自動車との衝突や接触の可能性を絶無にはできない。また、1つの車両をある一定の区間を占有させる閉そくという概念が単線区間を除いて存在しないため、ATSやATCといった保安設備の導入も基本的には行わなくてよいことになっている。
 一例だが、路面電車が交差点の赤信号を無視して進んだとしても、運転士がブレーキを作動させない限り、止める手だてはない。こういった点について筆者は国土交通省にも申し立てている(http://www.mlit.go.jp/pubcom/06/kekka/pubcomk48/01.pdfの1と4)のだが、抜本的な改革は難しいようだ。

経営効率はどちらが有利?

 最後に鉄道事業または軌道経営を営むうえでの営業損益と、100円の売上に要する費用を表す営業係数(償却後)から経営効率について考えてみたい。
 広島電鉄の営業損益は4億1442万3000円の黒字で、営業係数は90.8である。仙台市営地下鉄の場合、営業損益は13億230万2000円の黒字で営業係数は89.3だ。
 営業損益の差は輸送力の差でもあるから、仙台市営地下鉄が3.1倍も上回っているのはやむを得ない。しかし、営業係数はどちらもほぼ同じ数値だ。広島電鉄が置かれた環境を考慮すれば健闘しているといえる。両者の旅客車の両数と職員数を比較すれば一目瞭然だからだ。
 広島電鉄は269両の旅客車を保有し、603人の職員が業務に従事している。いっぽう、仙台市交通局が保有している旅客車は84両で、職員数は403人だ。つまり、広島電鉄は輸送規模が少ないにもかかわらず、仙台市交通局よりも旅客車が185両、職員数が200人もそれぞれ多い。これだけ差があるのに営業係数がほぼ同じということは広島電鉄は涙ぐましい合理化策を実行していると考えられる。
 基準賃金と基準外賃金、臨時給与を合わせ、1人に支払われる1カ月の平均給与を調べてみると、広島電鉄は39万1226円、仙台市交通局は70万862円だった。仙台市交通局の平均給与はJR中で最高額のJR東海の64万9404円をも上回っているのでいかがかと思うが、それにしても30万9636円という金額の差は大きい。
 路面電車は輸送単位が小さく、また速度が遅く運用効率が悪いので車両を多数用意しなければならない。しかも、無人運転は実用化されていないから、どの列車にも運転手が乗務する必要がある。運転手の数は広島電鉄が265人、仙台市交通局が59人だ。206人もの差異が生じているのは、「広島電鉄が路面電車だから」という理由以外に考えられない。
 全国各地で路面電車が姿を消してしまったの理由は道路交通の妨げになってしまったからだ。そのうえで、路面電車が宿命的にもっている経営効率の悪さも拍車をかけたに違いない。
 すでに京都市は細かく分析していることと思うが、現在の路面電車には課題が山積している。利用者の立場としては路面電車の復活を歓迎したいところだが、ここは慎重に考えなくてはならない。復活した路面電車が再び廃止されるといった事態など、だれも見たくもないからだ。

利用客、そして東京急行電鉄の悲鳴が聞こえる話

急行を準急に、その真意とは

 2007(平成19)年1月15日(月)、東京急行電鉄はこの4月5日(木)から田園都市線で新たな混雑緩和策を採り入れると発表(http://www.tokyu.co.jp/contents_index/guide/pdf/070115.pdf)した。中でも注目されるのは、同線の渋谷駅に平日の朝8時台に到着する上り列車28本(急行13本、各駅停車15本)のうち、現在運転されている急行をすべて準急に改めるという点だ。
 急行と準急とを比べると二子玉川-渋谷間での停車駅が違う。前者は途中三軒茶屋駅だけにしか停車しないのに対し、後者は用賀、桜新町、駒沢大学、三軒茶屋、池尻大橋と各駅に止まる。中央林間-二子玉川間の停車駅は同じ。どちらも長津田、青葉台、あざみ野、たまプラーザ、鷺沼、溝の口に停車する。
 急行を準急へと変更する理由は同社のニュースリリースでも述べられているとおり。利用客が急行に集中するために乗り降りに時間を要し、列車が遅れてしまうからだ。すべての列車の停車駅をそろえることで、どの列車にも均等に乗ってもらえる。すると乗降時間もほぼ同じになるので遅れも出にくい。東京急行電鉄はこのように考えたのである。
 同線やこの路線と相互乗り入れを行っている東京地下鉄11号線半蔵門線の状況は確かにひどい。朝のラッシュ時間帯にこれら各線を利用したときの経験から言うと、大体3〜5分は遅れていた。東京急行電鉄と同様に11号線半蔵門線に乗り入れている東武鉄道がよく文句を言わないものだと感心したほどだ。

全国の民鉄中ワースト2位タイの混雑率

 田園都市線の混雑ぶりをデータで紹介しよう。『都市交通年報 平成17年版』(運輸政策研究機構、2006年3月)の260ページから279ページには「主要区間輸送力並びにピーク時及び終日混雑率の推移」という項目が設けられている。ここには首都、中京、京阪神の交通圏で運転されている通勤路線の輸送のあらましが掲載されており、状況の把握に役立つ。
 この路線のデータは264ページに載っている。国土交通省が2003(平成15)年9月30日に行った調査結果によると、池尻大橋駅から渋谷駅までの間が最も混雑する区間だそうで、そのピークは田園都市線の場合は午前7時50分から午前8時50分までの間だったという。この間、28本の列車が運転され、通過した車両の総数は280両、1列車当たりの編成両数は10両。280両の車両の定員の和で求められる輸送力は4万1272人であり、これに対して利用者の数は8万686人、混雑率は195%だ。
 国土交通省や日本民営鉄道協会は200%の混雑率について、「体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める」と発表している。後半の肯定的な文面に惑わされてしまいがちだが、相当な混雑を覚悟しなくてはならない。何と言っても、「主要区間輸送力並びにピーク時及び終日混雑率の推移」で取り上げられている民鉄のうち、田園都市線の混雑率はワースト2位タイ(湘南モノレール江の島線の富士見町→大船も195%。ワースト1位は東京地下鉄東西線木場→門前仲町の198%)をマークしているからだ。ちなみにJRも含めた混雑率ワースト1位はJR東日本の京浜東北線上野→御徒町の225%である。

なぜ列車の増発や増結ができないのか

 さて、ニュースリリースを見る限り、朝のラッシュ時に田園都市線の列車が増発されるのかどうかが明らかにされていない。同社に問い合わせてみると、本数はいまと同じままなのだという。つまり、今後とも1時間当たり28本の列車で朝のラッシュ時を乗り切ろうと考えているのだ。
 現在、田園都市線の列車は朝のラッシュ時に平均2分9秒間隔で運転されている。これは東京急行電鉄が採用している運転保安設備の限界値でもある。田園都市線で用いられている一段ブレーキ制御方式の自動列車停止装置(ATC)は最小運転間隔を2分10秒として設計された。したがって、これ以上増発することは不可能なのだ。
 とはいうものの、やれと言われればあと2本くらい列車を増やせるかもしれない。だが、運転時間は確実に増えるし、何よりも危険だ。また、列車の本数が増えたところで乗り降りに時間がかかれば遅れてしまうのだから、これまでと同様に1時間に28本しか運転できないのかもしれない。
 それでは、10両編成の列車を11両や12両編成にしたらどうだろうか。こちらはさらに難しい。何しろホームの長さを延ばさなくてはならないが、地下駅の渋谷-桜新町間や11号線半蔵門線の各駅では大改造が必要だ。
 列車の長さが増えるので1本の列車が占有できる軌道回路(「列車又は車両を検知するために,レールを用いる電気回路。」、JISE3013の番号7001)の長さも変えなくてはならない。正確な数値はわからないが、現在の田園都市線の軌道回路長は10両編成の長さである200mに対して50m程度の余裕を設けた250m前後だろうから、1両当たり20mの長さの車両を1両増結すれば270m、2両増結すれば290mに延ばす必要がある。スピードアップでもしない限り、軌道回路が長くなれば運転間隔も開くから、運転本数は減ってしまう。つまり、1列車当たりの輸送力は向上しても、1時間当たりの輸送力で見れば逆に減少する可能性もあると言えるのだ。
 東京急行電鉄はホームページ上(http://www.tokyu.co.jp/railway/railway/mid/oshirase/den-en-toshi-taisaku.htm)で「現在の状況では、これ以上運転本数を増やすことは難しい」と記している。これは同社の正直な心境だろう。日常的に田園都市線のラッシュを経験している筆者の知り合いは、「毎日が(有名な神社や仏閣での)初詣のようだ」と語っていた。大変お気の毒としか言いようがないのだが、すでに東京急行電鉄が立てるべき策は尽きてしまった。あとは複々線化といった抜本的な改革しか残されていない。

安全は守られるがお客さんは迷惑する

「未来へのシグナル〜JR羽越線脱線事故の今〜」でのコメント

 当ページでも予告したとおり、2006(平成18)年12月25日(月)にさくらんぼテレビ(山形県)で報道特番「未来へのシグナル〜JR羽越線脱線事故の今〜」が放映された。2005(平成17)年12月25日19時15分ごろに羽越線砂越-北余目間で発生した「いなほ14号」の脱線転覆事故を検証する番組だ。2部構成となっており、荒天時における鉄道の安全運行についての課題、そして大規模災害時の救急医療体制の検証が丁寧につくり込まれていた。深夜の視聴となっても構わないので、ぜひとも全国ネットでの放映を望みたい。
 番組中、鉄道に関連してコメントを行っていた方々を登場順に挙げると、金沢工業大学の永瀬和彦教授、羽越本線の列車の運転の経験のある国鉄の元運転士(匿名)、国土交通省鉄道局の西村大司課長補佐、JR東日本安全対策部の牛島雅隆部長、東北大学大学院の小濱泰明教授である。そして、最後に発言したのは筆者だ。
 筆者のコメントは2カ所に分けて放映された。内容をかいつまんで紹介しよう。遠隔地で管理するCTC(列車集中制御装置)の死角についての指摘が一点。もう一つはタイトルにあるとおりだ。安全を期して運転の打ち切りなどの規制を早めにすべきだが、そのことでかえって利用客(番組ではお客さんと発言)が迷惑することから鉄道事業者は規制に慎重になっているという趣旨である。
 それぞれのコメントについて補足してみよう。まず、事故現場付近の羽越線を管理していたCTCは約160km離れた新潟駅に設けられていた。このようなことは別に珍しくはない。東海道、山陽新幹線に至っては1000km以上離れた博多駅の状況も東京駅に設置されたCTCで管理している。とはいえ、遠いから危険で近いから安全というものでもない。現場の状況を正確に把握するためにどれだけ投資しているかによって左右されるのだ。
 東海道、山陽新幹線では晴天であっても線路沿いを係員が随時巡回している。しかし、羽越線ではそのようなことは行っていない。コスト面でとても見合わないからだろう。
 2つ目のコメントについては、1986(昭和61)年12月28日(日)に山陰本線鎧(よろい)-餘部(あまるべ)間にある余部(あまるべ)橋梁で発生した回送列車の転落事故後の状況を頭に思い浮かべての発言である。事故が発生するまで余部橋梁は風速25mで運行停止となっていたが、事故後は風速20mへと規制が強化された。この結果、列車の運休や遅延が多発し、温泉地でもある地元から国鉄、JR西日本に対してクレームが寄せられてしまったのだ。
 仮に風速20mの強風をついて列車を運転したとしても、無事に余部橋梁を渡ることができるかもしれない。だが、走行中に風の勢いが強まったとしたらどうなるだろうか。

羊蹄丸、渡島丸の船長の判断は正しかったが……

 利用客に迷惑をかけたとレッテルを張られた日本国有鉄道(以下国鉄)の職員が一夜にして「救いの神」となった事例を紹介しよう。いまから53年前の1954(昭和29)年9月26日(日)夜半、国鉄最大の事故が発生する。青森港へ向けて函館港を出発した青函連絡船洞爺丸が台風15号に遭遇し、函館港内で転覆。乗客1041人、乗組員73人、その他の者41人の合わせて1155人が死亡する大惨事となった。さらに、当日は青函連絡船の十勝丸、日高丸、北見丸、第十一青函丸も函館港付近で転覆、沈没し、合わせて乗組員275人が死亡している。亡くなった人たちの合計は1430人。1912(明治45)年4月14日(日)にイギリスのホワイトスター社が保有するタイタニック号が大西洋上で氷山に衝突して沈没し、死者、行方不明者1517名を出した事故に次ぐ。鉄道事業者でありながら、国鉄は世界で2番目の海難事故を起こしてしまったのだ。
 1954年9月26日の16時ごろ、青森港では客貨船の羊蹄丸(16時30分発)と貨物船の渡島丸が函館港への出航を見合わせていた。台風15号は通過したものの、このまま出航しては津軽海峡上で遭遇することになると船長が考えたからだ。
 この時点で青森市の天候は回復基調にあったため、羊蹄丸に乗船するはずだった利用客の多くは船長の決断を歓迎しなかった。文句を言う者さえもいたという。しかし、翌朝になって函館湾で起きた大惨事を耳にし、命の恩人だと感謝する。転覆した洞爺丸からは奇跡的に159人が救助されたが、津軽海峡上で台風15号に遭遇したのなら1人として助かった人はいなかっただろう。
 もっとも、羊蹄丸、渡島丸双方の船長とも自らを英雄だとか救いの神だなどとは全く思わなかったに違いない。というのも、夜半に入り、函館港側の連絡船が次々に無線電信による遭難信号を発信するのを聞き、大いに困惑し、嘆き、悲しんだであろうからである。そこには自らを英雄視する気持ちが入る余地などない。

 今回の話はここまでだ。安全を確保するためには判断力が重要だということが理解できたが、実際にどのような判断を下すべきかは非常に難しい。もちろん、何が正しいのかははっきりしている。事故を起こさない、事故に巻き込まれないことが絶対に正しいのだ。

福知山線脱線事故の報告書案を読んで2

 航空・鉄道事故調査委員会(以下事故調)が2006(平成18)年12月20日(水)に公表した「事実調査に関する報告書の案(意見聴取会用) 西日本旅客鉄道株式会社 福知山線塚口駅〜尼崎駅間 列車脱線事故(平成17年4月25日 兵庫県尼崎市において発生」(以下報告書案)についての具体的な記述を引き続き検証してみよう。なお、報告書案は事故調のホームページ(http://araic.assistmicro.co.jp/)の左下にある「意見調査会」をクリックすると、本文1編、付図3図、用語集1編がダウンロードできる。

明暗を分けた3.6秒

 今回の事故について最も気になるのは、事故現場付近で列車がどのように走行していたかという点だ。これについては報告書案の10〜11ページ、「2.2.7 本件列車の伊丹駅出発から事故現場に至るまでの運行経過」に簡潔にまとめられている。
 それによると、事故を起こした上り快速電第5418M列車(以下5418M)は約116km/hの走行速度で問題の曲線に差しかかり、22m進んだ地点で通常用いる回生ブレーキ装置を作動させたという。回生ブレーキ装置とはJISE4001の番号71016で「主電動機を発電機として用い,これによって発生した電力を電車線(筆者注、架線)に返すブレーキ装置。」である。5418Mの運転士は徐々にブレーキ力を強め、ブレーキをかけ始めてから113m走行した地点で約105km/hまでスピードを下げたものの、同時に1両目の車両は進行方向左側に倒れるように脱線していった。
 実は報告書案には5418Mが力学的にどのような運動を行って脱線したのかについての記述はない。ただし、「2.21.5 脱線のコンピュータ・シミュレーション」(159〜161ページ)ではカーブの始まりから終わりまで等速で走行したとして、走行速度が何km/hであれば脱線しなかったかを試算しており興味深い。105、110、115km/hの3段階で試算した結果、1両目は105km/h、2両目は110km/hであれば脱線しなかったとの結果が出た。逆に言うと、1両目の走行速度が110km/h以上、2両目の走行速度が115km/hであるときは脱線するのだという。
 5418Mの走行速度が116km/hから105km/hに下がるまでに要した時間は3.6秒。つまり、シミュレーションどおりならば、運転士があとわずか3.6秒早く回生ブレーキ装置を作動させていればあのような悲惨な事故は発生しなかった可能性が高い。
 言うまでもなく、このような事故において3.6秒とは果てしなく長い時間である。それでも何とかならなかったのかと筆者は思う。
 事故調も同様に考えていたらしく、報告書案の大多数のページは、ブレーキ操作が3.6秒遅れた原因の究明に費やされていた。その際、事故調はさまざまな事象を取り上げている。報告書案にはこれらが事故の原因であるとは記されてはいない。だが、明らかに帰納法による思考に基づいて取捨選択したと考えられる。したがって、いくつか登場する事象はすべて事故の要因であると考えてよいだろう。

管理職失格を暗示する事故調

 筆者が最も興味を抱いた事象は「2.7.4.4 事故者に対する再教育に関する京橋電車区長の口述」(54〜55ページ)である。事故後に悪名を馳せたいわゆる日勤教育についての説明だ。5418Mの運転士も受けた京橋電車区の再教育の内容はレポート作成や上司(助役または係長)による試問らしいが、率直に申し上げてあまり運転技量の向上には役立たないように感じた。運転シミュレータを用いたり、実際の列車に添乗しての訓練ではないからである。もちろん、心構えも大切なので間違いだとは断言できないし、現実はそう甘くはないのだろう。
 この点を踏まえ、気になったのは以下の部分である。

「評論家の方が『今の躾はなっていない。家庭でも学校でも怒らない。こういうことが日本を崩壊に導くんだ』と言うが、私はそのとおりだと思う。家庭で怒らない、学校の先生はサラリーマン化し、それは家庭で言うべきなんだろうという形で、何も言わない。結局、人間の育成というか、躾は、今や企業にゆだねられている。
 良いことは良い、悪いことは悪いという分別、そして鉄道という世界だからルールをしっかり守るということをしっかり植えつけなければ、ルール違反をすることになりかねない。
 また、乗務員の教育や管理は、フォローしていかないと、そのときだけで終わってしまい、また人間関係がギクシャクするし、上司というのはそのときだけなんだなと思われる。私はそのような管理をしていいとは思っていないので、人間の懐に入って話そうと思っている。」

 一見、何とよい上司だろうであるとか、上司の苦労を部下は理解していないものだとも感じられる。だが、事故調が取り上げたということは、この口述も事故の要因だと考えているからに違いない。
 唐突ながら、ここで筆者が視聴したテレビ番組の話を引き合いに出させていただこう。テレビ東京系で2006(平成18)年5月22日(月)の22時00分〜22時54分まで放映された「カンブリア宮殿」でワタミ株式会社が取り上げられていた。番組中、同社が展開する居酒屋チェーン和民の店長を集めた会議の光景が映し出され、ある店長は部下の心がつかめないと泣き出す。筆者の記憶では店長を統括する上司は次のように反論する。
「一見よい店長に見えるが、こういうのが一番駄目だね。部下が言うことを聞かないのはお前に能力がないからだ。いますぐ辞表を書いてもらおう。」
 少々、演出過剰なところも見受けられ、これが本当の会議の光景だったのかは不明だ。しかし、京橋電車区長が和民の会議でここに紹介したような発言を行ったとしたら、あるいは辞めさせられていたかもしれない。事故調も同じように考えていたようで、京橋電車区長の口述に対しては事実上厳しい評価を下している。
 確かに、ミスの根本的な原因を突き止めず、上層部にかけ合って解決するでもなく、ただ単に部下に責任を転嫁しているとも受け取られる発言には筆者もいかがなものかと思う。とはいえ、人を教育するための教育が難しいこともまた事実だ。JR西日本は管理職の教育が苦手な会社なのかもしれない。筆者がかつて勤務していた会社にもそのような問題点は数多く存在した。ワタミのように管理職の教育が得意な会社はむしろ少ないようにさえ感じる。

 報告書案で取り上げられた事象のほんの細かい話でさえ、つぶさに読み取ってみるといま挙げた話となってしまう。核心に迫っていきたいのはやまやまではあるが、続きは後日とさせていただきたい。

営業係数から見る鉄道

黒字と赤字を見る指標、営業係数

 日本国有鉄道(以下国鉄)が存在していたころ、毎年営業係数が発表されていた。100円の収入を得るのにいくら経費がかかるのかという数値である。100円を下回れば黒字、上回れば赤字だ。1978(昭和53)年度の国鉄の営業係数は旅客輸送部門が164円、貨物輸送部門が312円(旅客輸送部門との共通経費を差し引くと174円)とどちらも赤字だった。
 現代の日本では鉄道の営業係数はいくらとなっているのだろうか。『平成16年度 鉄道統計年報』(国土交通省鉄道局監修、政府資料等普及調査会、2006年3月)の120ページから199ページまでの「(5)凝患案散髪超搬傘廖廚鳳超鳩舷瑤2種類掲載されている。項目を見ると「償却前」「償却後」で、単位は%だ。「償却」とは営業費の合計から諸税と減価償却費を差し引き、厚生福利施設の収入を加えることだ。今回は「償却後」の営業係数を紹介して考えてみよう。なお、単位は円としたほうがわかりやすいので、置き換えている。
 2004(平成16)年度の全国すべての鉄道、軌道の営業係数は84.3円だった。100円の収入に対し、15.7円の利益を生み出したことになる。国土交通省が分類した鉄道と軌道の形態別の営業係数は大都市高速鉄道が83.4円(うち地下鉄は87.5円)、路面電車は113.3円、地方旅客鉄道は106.0円、観光鉄道は116.4円、貨物鉄道は101.9円、JR旅客会社は83.4円、JR貨物は97.9円である。
 大都市高速鉄道とJR旅客会社の数値が同じというのは偶然とはいえ面白い。単純に比較することはできないが、29年前の数値と比べると80.6円も改善されたことになる。

営業係数ベスト10は

 気になるのは各社別のランキングだろう。営業係数ベスト10とワースト10を表にまとめてみた。


 ベスト10には意外な顔ぶれが並んだ。特に1位から3位までの鉄道会社をご存じのない方も多いに違いない。実はこれらは線路だけをもち、実際の列車の運行は他社に任せている第三種鉄道事業者だ。1位の和歌山県は和歌山港線県社分界点-和歌山港間2.0kmを所有し、列車の運行は南海電気鉄道に委託している。同様に2位の成田空港高速鉄道は成田空港高速鉄道線としてJR成田線分岐点-成田空港間8.7kmと京成本線分岐点-成田空港間2.1kmの線路をもつ。言うまでもなく、実際の列車の運行はJR東日本と京成電鉄が担当する。3位の京都高速鉄道は東西線御陵(みささぎ)-三条京阪間3.3kmの所有者で、列車を運行しているのは京都市だ。
 線路をもち、列車の運行も行う鉄道事業者を第一種鉄道事業者という。一般的な鉄道会社は皆これに含まれる。第一種鉄道事業者中、最もよい営業係数を上げたのはJRでも大手民鉄各社でもなく、北海道は釧路市の春採(はるとり)と知人(しりと)との間、4.0kmを結ぶ臨港線をもつ太平洋石炭販売輸送だ。
 同社は貨物輸送だけを行っており、旅客は乗ることはできない。社名からもおわかりのとおり、貨物の中身は石炭で、2004年度の数値を見ると、年間70万7460t(2004年度)を輸送している。収入(営業収益)は1億7042万6000円に対し、経費(営業費)は1億837万2000円だったため、このような数値をたたき出したのだ。
 以下の顔ぶれはご覧のとおり。5位の能勢電鉄には鋼索鉄道(ケーブルカー)部門があり、こちらの営業係数は214.1円、同様に9位の東京急行電鉄は軌道部門(世田谷線)もあり、営業係数は133.1円、10位の富山地方鉄道は鉄道部門(本線、立山線、不二越線、上滝線)もあり、営業係数は109.1円となっている。
 8位の筑波観光鉄道は筑波山鋼索鉄道線宮脇-筑波山頂間1.6kmのケーブルカーをもつ。営業係数があまり良好ではない観光鉄道中、全国1位の成績を収めている。
 ランキングに登場しないものの、気になる鉄道事業者の数値も紹介しておこう。JR旅客会社のトップはJR東海で71.3円だ。以下、84.4円のJR東日本、88.1円のJR西日本までが黒字。JR九州は102.9円、JR四国は125.5円、JR北海道は133.8円である。
 地方旅客鉄道でなおかつ第一種鉄道事業者中、最も成績のよいのは水間鉄道の78.2円だ。次いで78.3円の北越急行が肉薄する。
 地下鉄(第一種鉄道事業者)のなかで最もよいのは東京地下鉄の79.7円。大阪市が80.5円で続く。

営業係数ワースト10は

 続いては2004年度のワースト10だ。このうち、2社はすでに廃止されており、営業係数の悪さがそのまま反映されている。
 10社を分類すると、地方旅客鉄道は阿佐海岸鉄道、芝山鉄道、三木鉄道、紀州鉄道、愛知高速交通、神岡鉄道、北海道ちほく高原鉄道の7社、神戸市都市整備公社と伊豆箱根鉄道(駒ケ岳線)はどちらも鋼索鉄道で観光鉄道だ。形態別での営業係数も悪く、地方旅客鉄道と観光鉄道の経営がとても苦しいことがおわかりいただけることだろう。
 大都市高速鉄道中、ただ一つランクに入っている名古屋臨海高速鉄道は西名古屋港線、通称あおなみ線名古屋-金城ふ頭間15.2kmを運行する第一種鉄道事業者だ。2004(平成16)年10月6日と開業したばかりだったため、7億1514万8000円の収入に対して減価償却費が11億6384万2000円もかかってしまい、営業費を23億5556万7000円と悪化させてしまったことが原因だ。同社の場合、償却前の営業係数は166.6円である。この数値もよくはないが、次第に好転していくのだろう。

福知山線脱線事故の報告書案を読んで1

 2006(平成18)年12月20日(水)、航空・鉄道事故調査委員会(以下事故調)から「事実調査に関する報告書の案(意見聴取会用) 西日本旅客鉄道株式会社 福知山線塚口駅〜尼崎駅間 列車脱線事故(平成17年4月25日 兵庫県尼崎市において発生」(以下報告書案)が公表された。事故調のホームページ(http://araic.assistmicro.co.jp/)の左下にある「意見調査会」をクリックすると、本文1編、付図3図、用語集1編がダウンロード可能なページに行き着く。
 死亡者107人、負傷者555人を出したこの大事故についてはさまざまな原因が語られてきた。それだけに今回の報告書案は大事故の真相を究明するものとして各方面から大きな期待が寄せられていたと言ってよい。
 筆者も報告書案をダウンロードし、早速読み込んだ。当初は報告書案の概要と考察をまとめ、すぐにでも当ページで発表しようと考えていたが、何度も読んでいるうちに頭を抱え込んでしまった。
 報告書案に記されている内容はそう難しくはない。高校生はもちろん、この事故に興味を抱いた小、中学生でも理解可能だ。しかし、事故の原因として挙げられている一つ一つの要素、そしてそれらにまつわる担当者たちのコメントには唖然とさせられるものが多い。確たる科学的な根拠もないままに規則を定め、その規則がときには誤っていたり、運用を間違えていたのだ。
 報告書案を読んで頭を抱えた理由はまだある。今回の事故を起こしたJR西日本に対する事故調の「静かなる怒り」が如実に現されていたからだ。これまでにも筆者は古今東西の報告書や資料に込められた怒りを目撃してきた。しかし、それらの中でも今回の報告書案での怒りは最も大きなものと言ってよい。
 これほど感情的に記された原因は、調査段階で事故調が抱いたJR西日本への不信感、そして被害者の受けた苦しみの大きさに触れたからだろう。また、忘れてはならないのはこの事故がダイヤの遅れを取り戻すために起きたという点だ。
 実はこの事故のわずか1カ月半ほど前の2005(平成17)年3月2日、土佐くろしお鉄道宿毛線宿毛駅構内で同様の事故が発生した。遅れを取り戻そうとしていた「南風17号」が速度超過のまま、宿毛駅の車止めを突き破り、駅舎に衝突したのである。同種の事故が続いたうえ、2回目の事故があまりにも巨大な被害をもたらしたため、事故調も大きなショックを受けたに違いない。この際だからすべての問題を洗い出して解決していきたいという意気込みが感じられる。
 今回は報告書案に対する検証の入口だけしか示すことができなかった。大変恐縮だが、細目についての検証にはもう少々時間をいただきたい。

津山線での脱線事故について

 2006(平成18)年11月19日(日)午前5時30分ごろ、JR西日本津山線(津山-岡山間58.7km、全線単線、非電化)の列車が岡山県岡山市下牧で脱線、横転する事故が発生した。この事故で運転士1人、乗客25人の合わせて26人の全員が負傷し、うち3人は入院したという。けがをされた皆様にお見舞いを申し上げますとともに一日も早いご回復をお祈り申し上げます。
 事故は津山4時29分発、岡山5時45分着の津山線の下り一番列車、941D(2両編成)が5時29分に牧山駅から隣の玉柏(たまがし)駅を目指して発車した直後に起きた。JR西日本の調査によれば、事故現場付近で縦約4.8m、横約5m、高さ約1.8m、重さ100t程度の落石が発見され、線路はゆがみ、レールは1カ所で破断していたという。
 運転士の証言によると、941Dは事故現場直前を65〜70km/hで走行中、線路上に障害物があることを発見したために非常ブレーキを作動させたそうだ。しかし、その直後に列車は進行方向右に大きく傾き、脱線したという。なお、事故現場の写真から、列車は落石には衝突していないようで、落石によって線路が破壊されたことから脱線、横転につながったのではないだろうか。
 一見するとこの事故は天災であり、JR西日本にとって避けられない事故だったように思われる。しかし、現時点で筆者は2つの疑問を抱いており、これらはぜひとも今後の調査によって明らかにしてほしいものだ。以下、疑問点を挙げていきたい。

疑問1 落石はいつ発生したのか

 941Dの直前に事故現場を通過した列車は、前日の11月18日(土)の23時34分に玉柏駅を発車し、牧山に23時43分に到着した972Dである。現時点でこの列車から何か異常が報告されたとは伝えられていない。したがって、落石は23時43分から翌朝5時30分までの間に起きたと見るべきだろう。
 問題は落石の発生時刻だ。列車通過よりもかなり早い時間、具体的には1時間以上前に発生していたとなると、JR西日本の線路の管理に不備があったと見られても仕方がない。
 ところで、線路と並行する県道は941Dが走行する時間帯には通行止めとなっていた。午前4時ごろ、岡山県警察岡山西署は県道が陥没しているとの通報を受け、それに伴って実施したものだ。陥没の原因は明らかではないが、線路を破壊した落石による可能性も考えられる。通行止めの情報は岡山西署からJR西日本に伝えられていなかったそうだ。

疑問2 なぜ列車を止められなかったのか

 「平成16年度 鉄道統計年報」(国土交通省監修、政府資料等普及調査会、2006年3月)428ページによれば、津山線の閉そく方式は全線が自動閉そく式であるという。自動閉そく式とはJISE3013の番号3010で「連続した軌道回路を設け,常置信号機の現示を列車によって自動的に制御する常用閉そく方式。」と定められている。
 ここで登場する軌道回路というのは「列車又は車両を検知するために,レールを用いる電気回路。」(JISE3013の番号7001)だ。この電気回路は列車の車輪によって短絡され、後方の主信号機(「一定の防護区域をもっている信号機で,場内信号機,出発信号機,閉そく信号機,誘導信号機及び入換信号機の総称。」、同番号2010)は停止を現示(「信号の指示内容を表すこと。」、同2003)する。
 レールが破断された場合、当然電気回路も寸断されるため、通常ならばこの付近の主信号機は皆、赤信号とならなければならない。JR西日本に限ったことではないが、レールの破断は比較的よく起きている。だが、多くの場合、大事に至らないのは軌道回路の働きによるところが大きい。
 単線区間なので牧山-玉柏間に閉そく信号機が設置されているかどうかは不明だ。しかし、少なくとも牧山駅に出発信号機は設置されている。特に何も伝えられてはいないが、この信号機が停止を現示していたのではないらしい。
 つまり、可能性は2つに絞られる。落石は941Dの牧山駅発車後に発生したか、あるいは落石によってレールが破断されても何らかの理由で軌道回路が構成されていたままだったというものだ。
 筆者は後者の可能性が濃厚だと考えている。落石によって線路が大きくゆがむほどの衝撃を受けたにもかかわらず、レールとレールを結ぶレール用継目板が壊れなかったのではないだろうか。しかし、この仮定にも疑問が生じる。レール用継目板が果たして重さ100tの岩石の落下には耐えられるのかというものだ。
 軌道延長62.4kmのうち50kgNレールが58.1kmを占める津山線では、曲線区間のレール用継目板は熱処理を施した2種50kgNレール用の50Hが用いられていると考えられる。JISE1102によると、50Hの引張強さは686N/岼幣紊覆韻譴个覆蕕覆い修Δ澄N鷦屬猟眠瓩砲浪燭量簑蠅呂覆い里賄然だが、落石は100tだった。破損しないほうが不思議だ。
 本稿を執筆している11月20日午前0時30分現在の状況は以上である。今後また何か新たな情報が得られたら、そのつど考察していきたい。

42(よんじゅうに)

 いじめによる子どもたちの自殺が相次いでいる。拙著の読者にも多くの小中校生がいるので、皆さんがどうされているのか気になって仕方がない。鉄道が好きというだけで周りはどうしても偏見をもつ。だからいじめの対象になっているのではと心配だからだ。
 皆さんは、鉄道が好きな人への偏見をなくすことができない自分のような大人、そして偏見を助長するように仕向ける大人が憎くてたまらないことだろう。愚かな大人たちを許してほしい。どんなことがあっても現状を変えていくつもりだ。いまはもう少し待ってくださいとしか言えない。
 いじめに悩み苦しんでいる皆さんにどんな言葉をかけてよいのか途方に暮れている。そんな自分自身が何かを語るよりも、筆者が尊敬するある文筆家の文章が参考になるはずだ。http://jogjob.exblog.jp/d2006-11-07
 ここに書かれていることをできれば声に出して読んでみよう。悩みや苦しみは消えないかもしれないけれど、死ぬのがバカバカしくなったに違いない。そうなればしめたもの。嫌なことの半分はもう消えた。

 いま自分も声に出して読んだ。大人である自分が情けなくなった。そして、ようやく皆さんに言いたいことが頭に思い浮かんだ。鉄道に関連した話にしたいのだけれど、ちょっと違う分野にも飛び出すので許してほしい。
 頭の中には「42」という数字が駆けめぐっている。「よんじゅうに」と読む。自殺が相次いでいるからといって決して「死に」を連想したのではないよ。
 この数字はいまから60年も前にアメリカ大リーグのプロ野球選手が付けていた背番号だ。名前をジャッキー・ロビンソンという。知っている人も多いかもしれない。黒人初の大リーガーとしてブルックリン・ドジャースに入団した選手だ。
 いまのアメリカはそうではないのだけれど、このころは人種差別がひどかった。白人ばかりの大リーグのチームに入団したロビンソン選手も相当苦労したらしい。自分は中学生のころ同じアメリカのサンフランシスコ郊外の公立学校に通っていて、ロビンソン選手ほどではないけれど、やっぱり嫌な目に遭った。だからほんのわずかだけど彼の気持ちが理解できる。
 ロビンソン選手のことを知ったのも実はアメリカの中学校の社会科の時間だった。アメリカはひどい国だと思ったけれど、人種差別がいかに愚かなもので、自分の子どもの世代には絶滅させたいと考えていたこともこれでよくわかる。
 先生の説明に続いて映画が上映された。入団直後のロビンソン選手がチームメートとキャッチボールをしようとするのだが、だれも相手にしてくれない。試合に出ればブーイングの嵐。彼がなぜ野球を続けることができたのか。自分にはいまだにわからない。
 でも、ロビンソン選手は結果を残した。受け売りなんだけれども大リーグに昇格した1947(昭和22)年のシーズンは151試合に出て打率は2割9分7厘、ホームランは12本、48打点、29盗塁の成績だったという。新人王を受賞したのも納得がいく。
 ロビンソン選手はその後も大活躍し、首位打者やMVPなど、野球選手ならだれもがあこがれるタイトルを次々に獲得した。だけど、彼の最も大きな功績は、自らの活躍によって多くの黒人選手、そして白人でない選手たちに門戸を開いたことだ。
 いま、鉄道が好きな人たちが受ける世間の冷たい視線を和らげることができないのは、自分が大して活躍していないからだということがよくわかった。映画を観てから30年近くもたってやっと気がつくくらいだから、できないのも無理もない。

 この映画を観た後、中学生の自分は何となく元気が出て、休みの日に家の近所を走るサザン・パシフィック鉄道の列車の写真を撮りに出かけてみた。アメリカだからごついディーゼル機関車が大量の貨車を連ねて走り、ごくたまにやってくる旅客列車は同じくディーゼル機関車が2両ほどの客車を引くだけ。でも何もかもが魅力的な存在だった。
 父親から借りたカメラで撮影していると、近くに無線機をもった中年の白人男性が立っている。職員なのかと思ったらそうではなく、その人も鉄道が好きで見学に来ていたらしい。一言二言あいさつしただけなのだけれど、何だかとてもいいことがあったような気分になった。
 当時の自分がどれだけ感動したかというと、この話を文章にしたためてみんなの前で発表したことでわかってもらえるかもしれない。アメリカの中学校はもちろん、毎週土曜日に通っていた日本語補習校でもだ。清々しい思いをし、その感動を皆に伝えることがこれほど気持ちがよいとは想像もつかなかった。いまのいままで気がつかなかったけれど、このときの快感が忘れられないために自分はこうして文章を書いて生活しているのだろう。
 余計なことかもしれないけれど、授業でジャッキー・ロビンソン選手を取り上げてくれた先生は体格のいいおばさん先生。子どものころ中国からアメリカに渡ってきた人でミス・リムという。
 すごく厳しい先生なので当時は好きではなかったけれど、いまはわかる。子どものころの先生と同じような境遇にいる自分に期待をかけてくれていたのだ。だいたい、母国語でもない言葉をアメリカ人の学校で国語としてアメリカ人に教えるくらいマスターするなんて並外れた努力をしなければできない。それだけではなく、スペイン語まで教えていたし、教科書の執筆までしていた。学校の先生が嫌いな人も多いかもしれないけれど、1970年代終わりのアメリカ、それも田舎の片隅にこんなすごい先生がいたという事実だけ紹介しておく。

 ここまで書いた出来損ないの話で皆さんの悩みや苦しみがなくなるかどうかは疑問だ。けれども、そんなこともあるのだと心の片隅に置いてもらえればとてもうれしい。

 ジャッキー・ロビンソン選手は引退後、人種差別撤廃を訴える社会活動に多くの時間を費やしたそうだ。しかし、1972(昭和47)年に53歳の若さで事故死してしまう。
 いま、大リーグにはニューヨーク・ヤンキースのマリアノ・リベラ投手以外、背番号42を付ける選手はいない。ヤンキースでもリベラ投手が引退したり、他の背番号に変えれば、二度と42番を背負う選手は現れないのだという。なぜなら、ロビンソン選手の偉業をたたえ、彼の付けていた背番号42は大リーグの全球団で永久欠番になっているからだ。

JR東日本の651系は欠陥車両ではない その2

特殊信号発光機は停止信号を現示。しかし、運転士は……

 2006(平成18)年9月9日付けの当欄では2005(平成17)年4月26日(火)にJR東日本常磐線羽鳥(はとり)駅構内(茨城県東茨城郡美野里町、現在は茨城県小美玉市)で発生した踏切障害事故の真の原因は特殊信号発光機が停止信号を現示(信号が指示している内容)しているにもかかわらず、車両の非常ブレーキが自動的に作動しなかったからであると記した。これがどういうことなのかは国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(以下委員会)がまとめた鉄道事故調査報告書(以下報告書、http://araic.assistmicro.co.jp/araic/railway/report/RA06-4-9.pdf)を読み解く必要がある。
 651系の運転士は石岡駅を定刻の12時46分に通過し、5381m走行した後、羽鳥駅まであと1079mの地点まで到達した。この地点には羽鳥駅の手前165mに建てられている場内信号機(駅、信号場、操車場に進入しようとする列車にその可否を伝える信号機)の喚呼(声に出して確認すること)位置標がある。
 ところが、運転士は場内信号機が進行信号であることは確認したものの、喚呼は行わなかったという。前方の踏切に障害物らしきものを発見したからだ。同時に踏切に設けられた非常押しボタンを押すことで作動する特殊信号発光機が停止信号を現示していたのを見落としてしまう。
 特殊信号発光機とはJISのE3013番号2050によると、「列車を緊急に停止させる必要がある場合に,発光信号を現示する装置。」とある。報告書によると5個の電球が五角形状に並べられたものとあるが、どのように停止信号を現示していたのかまでは説明されていない。株式会社三工社の資料(http://www.sankosha-s.co.jp/seihin/pdf/tokusyu.pdf)によれば、赤色灯が点滅しながら回転するのだそうだ。
 場内信号機を確認できたにもかかわらず、その20m手前に設けられ、しかも格段に目立つ特殊信号発光機の停止現示をなぜ見落としてしまったのかという理由はわからない。何にせよ、もしも特殊信号発光機の停止信号を確認できたのならば運転士は即座に非常ブレーキを作動させたはずだから、故意に停止させなかったということはまずないだろう。

踏切障害事故の根絶は、自動的に列車を停止させる装置の導入から

 この踏切障害事故で委員会が問題視していないことがある。それは、特殊信号発光器が停止信号を現示したならば、ATS(自動列車停止装置)のように運転士の意思に関係なく、即座に列車を止める装置が導入されていないという点だ。
 たまたま手元にある資料から引き合いに出すと、東武鉄道にはこのような仕組みが導入され、同社は踏切防護用ATS装置と呼んでいる。遮断機の降りた踏切道に人や物が取り残されてしまった場合、非常押しボタンを押さなくても、センサーが支障を検知し、ATSを作動させるという。ただし、東武鉄道でもすべての踏切道がこのようなシステムとなっているのではない。自動車が通行できる踏切道だけに限られ、しかもその設置工事も今年度の2006年度になってようやく完了するのだという。
 2003(平成15)年度に全国すべての鉄道会社で発生した踏切障害事故の数は403件。踏切道上に立ち往生した人のうち、124人の方々が亡くなり、120人の方々が負傷し、衝突した列車に乗車していた利用客のうち、12人の方々が負傷した。国土交通省は踏切道の対策(http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/fumikiri/fu_04-2.html)に取り組んではいるものの、どうも不十分な気がしてならない。
 究極の解決法は踏切道をなくし、立体交差化することだが、それはなかなか難しい。せめて、交通量の多い踏切道だけでも立ち往生しただけで自動的に列車を止める装置の導入を義務付ける必要がある。それでも、列車の通過直前に踏切道に進入したとなると踏切障害事故を避けることは困難だ。しかし、十分な制動距離があるにもかかわらず、衝突してしまうとはやりきれない。そのやりきれない事故はいつ根絶できるのだろうか。


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