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2016年鉄道3大ニュース

 気がつけば2016年も残すところあとわずかとなった。鉄道にまつわるこの1年の話題を振り返り、筆者(梅原淳)とのかかわりを述べてみたい。

■鉄道3大ニュース

・1位 JR北海道が自社単独では維持困難な線区を発表 11月18日

 

 JR北海道といえば、3月26日に北海道新幹線新青森-新函館北斗間の開業という明るいニュースがあったものの、全体として深刻な話題に終始した。たとえば、3月26日のダイヤ改正で普通列車の大量廃止、8月に北海道を次々に襲った台風によって線路や施設に大きな被害が発生したといった具合にだ。なかでも最大のものが表題のニュースである。JR北海道の営業キロ2568・7kmのうち、実に48パーセントに相当する1237・2kmが自社単独では維持困難と見なされたのだ。
 沿線の自治体には今年の春以降、JR北海道から維持困難であるという旨を伝えられていたらしい。そうしたこともあり、筆者は夏ごろから地元の北海道新聞からこの話題についてインタビューやコメントの依頼を受けた。さらに、全国版メディアへの寄稿、コメントも相次ぎ、直近では2017年1月9日に発売予定の「週刊エコノミスト」(毎日新聞出版)にも筆者が記した拙文が掲載の予定だ。
問題の本質、解決の指針については拙記事をご覧いただくとして、根本的には資本主義の世の日本で鉄道という交通機関をどのように維持していくかという問題に突き当たる。『鉄道政策論の展開 創業からJRまで120年』(運輸経済研究センター編、白桃書房、1988年1月)のなかで当時大阪市立大学教授であった中西健一氏は次のように記した。
「国鉄経営破掟の原因については、多角的に論じられたが社会党・共産党などは組合擁護の立場から合理化の不徹底や生産性の低さ、争議やサボタージュによる貨客離れ、人件費の圧迫などについては意図的にふれず、利子負担を主に問題視し、借入金利子補助方式ではなく、西欧型の単年度欠損補助方式を採っていたならば国鉄の破産は防止できたはずであるなどと主張した。単年度補助方式をとっていたなら国鉄の破産は防止できたかもしれないが、それは単に負担を国鉄財政から国家財政へ移すだけのことであって、労働力を含めて巨大な資源の浪費という事態の本質はなんら変わらないのである。単年度欠操補助方式の方が親方日の丸的経営不在をいっそう助長していたかもしれない。(後略)」(前掲書402ページ)
 JR北海道の営業損失を補てんするために設けられた経営安定基金の運用益には税金が投入されている。にもかかわらず、なお経営破綻の可能性がぬぐい去れないJR北海道は果たして、「単に負担を国鉄財政から国家財政へ移すだけのことであって、労働力を含めて巨大な資源の浪費という事態の本質はなんら変わらない」という状態と言えるのだろうか。いまから30年近く前の問いかけが2017年にはさらに重くのしかかる。

 

 

・2位 JR九州の株式が公開される 10月25日

 

 JR九州の株式公開は同社そして政府にとって長年の夢であった。にもかかわらず、上場を果たしたJRとしては1997年10月のJR東海以来と実に19年もの時間を要したのは、同社の経営基盤の弱さに由来する。JR北海道、JR四国とともに、経営安定基金の運用益なくしては鉄道事業における営業損失を補てんすることができなかったからだ。
 「週刊エコノミスト」誌上や「毎日新聞経済プレミア」「東洋経済オンライン」で筆者が指摘したとおり、JR九州は上場に当たって本業の鉄道事業の営業損失を許容し、関連事業である不動産事業の営業利益で補うという方策を採り入れている。株式公開後は鉄道事業が足を引っ張らないよう、あらかじめ鉄道用の固定資産だけで5256億8500万円もの減損処理を行い、2016年度期首には鉄道用の固定資産はわずか6億7700万円となった。鉄道用の固定資産のうち鉄道車両は1億0100万円で、筆者の算出では「ゆふいんの森」向けに増備された車両で、九州新幹線用の新幹線電車や「ななつ星in九州」用のディーゼル機関車や客車は簿記上では無価値と見なされている。
 筆者は10月にある証券会社で機関投資家向けに講演を行った。その席上でもJR九州の大胆な固定資産圧縮術は話題となっており、少々強引ではないかとの意見もあったほどだ。ともあれ、上場直後に3060円であった株価は本稿執筆時である12月26日の終値でも3050円とほぼ同額で推移している。JR九州の進む先にこそ、これからの日本の鉄道の未来が示されているのではなかろうか。

 

・3位 リニア中央新幹線の建設費に財政投融資の活用が検討される 6月2日

 

 JR東海が整備を進めている超電導リニアによる中央新幹線、通称リニア中央新幹線の建設費は約9兆1000億円に上るという。この巨大なプロジェクトに対し、6月2日に閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針2016」、いわゆる今年度の「骨太の方針」に財政投融資の活用が検討された。2027年の品川-名古屋間、2045年の名古屋-大阪間と予定されている開業時期のうち、後者を最大で8年繰り上げるために政府が考案したJR東海への支援策だ。
 リニア中央新幹線への財政投融資は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)を通じて行われる。政府・与党は独立行政法人鉄道建設法の改正案を12月17日に閉会となった第192回臨時国会に提出し、与党などの賛成多数で成立となって総額3兆円に上るJR東海への財政投融資が確定した。
 返済条件を見てみよう。利息は年0・3〜0・4パーセント程度の固定金利、返済期間は40年だ。JR東海は最初の30年間は利息だけを支払い、残りの10年間は元本均等払いで返すという。
JR東海は2015年度に鉄道事業で5555億8600万円の営業利益を計上している。全国の鉄道事業者中、最大の数値だ。同社は長らくリニア中央新幹線の整備を自前で実施すると事あるごとに主張してきた。にもかかわらずなぜ財政投融資を受け入れるのか。自己資金が足りないからにほかならない。
「金融財政事情」2016年6月27日号(金融財政事情研究会)の「財投活用のリニア建設が待ち受ける命運」(6-7ページ)には理由について次のように記されている。少々長いが引用しよう。
「もともとJR東海が07年に弾いた試算では、同社の長期負債残高が25年度(当初の品川-名古屋開業年度)に4兆9000億円となり、これを開業8年目に3兆7018億円まで減らす計画だった。16年3月期の固定負債は計2兆2767億円。これを4兆9000億円へと、2兆6233億円増やす資金調達計画はどうなるか。
民間金融機関から借り入れる場合、JR東海が担保として差し入れられる試算はおもに建物および構築物と土地であり、その額は計3兆8822億円。このうち5552億円はすでに担保として設定済みであり、担保余力は3兆3270億円とみられる。だが、鉄道事業に供する建物や土地は処分しづらく、金融機関が厳密に担保を査定すれば融資可能額は大幅に小さくなるだろう。そのため担保余力の約7割にあたる2兆3000億円程度を銀行等からの借入れ可能額と甘めに算段しても、残る3000億円超は社債など他の方法で調達せざるをえない。JR東海の発行済み社債は6461億円、そこから3000億円超を上積みすると残高は約1兆円超までふくれあがる。
(中略)JR東海にとって、同時期に名古屋-大阪間も開業し、その建設費用にかかる長期負債を上乗せさせることは困難だった。」
 いま引用した無署名の記事には、JR東海の公表資料にもともと潜んでいた矛盾点が鋭く暴かれている――ともったいつけた言い方はやめよう。実を言うと、この記事を執筆したのは筆者である。
 筆者は、リニア中央新幹線とは国家的プロジェクトであり、私企業であるJR東海の裁量に任せるのではなく、政府が主導的な立場を取って整備を進めるべきと一貫して主張してきた。財政投融資の検討から決定へと至る過程は筆者の主張に沿うものだ。別に筆者の見識が正しかったなどと言うつもりはない。経済の観点から、日本の社会という観点からリニア中央新幹線という事業を見た場合、当然の帰結であり、筆者は単にその潮流に乗っただけである。



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