HOME > 記事のINDEX
/

東京地下鉄、東武鉄道の新車は日比谷線の急カーブを曲がることができるのか

日比谷線用の新車は1両につき長さが2m延びる

 東京地下鉄、東武鉄道の両鉄道事業者は2014(平成26)年4月30日に共同でニュースリリースを発表した。両者間で実施している東京地下鉄2号線日比谷線(日比谷線)と東武鉄道伊勢崎線との相互直通運転用にと、2016(平成28)年度から2019(平成31)年度にかけて新しい電車を導入するのだという。
 ここまでならばよくある話だ。しかし、ニュースリリースにある次の一文が筆者の目を引いた。引用させていただこう。
「現在、3扉車両と5扉車両(前2両・後2両)が混在する東京メトロ日比谷線、東武スカイツリーライン直通車両のすべてを4扉車両(20m化7両編成)に統一し、将来のホームドア設置における課題を解消してまいります。」
 文中で「20m化」とは車両1両当たりの全長を20mに変えることを指す。ニュースリリースだけでは全長何mの車両から変えるのか、つまり現在用いられている「3扉車両と5扉車両」の全長が不明だ。補足するとどちらも全長18mとなる。
 地下鉄は、地上に敷かれた鉄道と比べると車両の長さを延ばすことが格段に難しい。莫大な建設工事費を節減する目的でトンネルを極限まで小さくつくった結果、計画よりも寸法の大きな車両を走らせようとすると、カーブを曲がったときに車体がトンネルに接触する恐れが生じるからだ。したがって、全国に地下鉄は数あれど、車両の長さを1両につき2mも延ばすことは非常に難しいと思われる。東京地下鉄も恐らくはその困難さを承知のうえで実施しようとしており、極めて珍しい取り組みに筆者は興味を抱いたのだ。

カーブを曲がるとき車両は線路の両側にはみ出す

 日比谷線は急カーブの多い路線である。最も急なカーブの半径は160mとして設計されたが、用地を取得できなかったために半径130mとさらに厳しいカーブとせざるを得なかった場所が3カ所ある。人形町-茅場町間、日比谷-霞ケ関間、神谷町-六本木間の各1カ所ずつだ。全長18mの車両が走行できるように設計された半径130mのカーブを果たして全長20mの車両が曲がることができるのか。検証してみよう。
 この地下鉄の建設計画が立てられた1957(昭和32)年ごろに準拠すべきであった地方鉄道建設規程では、車両の幅を2744mm、トンネル内側の幅は3810mmとし、車両とトンネルとの間は左右両側とも533mmずつ離すと定められていた。しかし、これでは建設工事費がかさむうえ、車両の幅が狭すぎると、東京地下鉄の前身の帝都高速度交通営団(営団)はトンネルの内寸を3200mmに縮めるいっぽうで車両の幅を2800mmに広げることとして運輸大臣の特認を得る。
 車両とトンネルとの間の余裕空間は左右両側とも200mmずつと333mmも減ってしまった。しかし、トンネルの内寸を610mmも小さくしたおかげで、1km当たりの建設工事費は今日の貨幣価値に換算してざっと数億円は安く上げられたはずである。
 カーブを通過する際、車両は車両偏倚(へんい)といって、車体の端部が曲線の外側へ、走行装置である台車と台車との間にある車体の中央部が曲線の内側へそれぞれはみ出す。車両偏倚は曲線半径が小さく、つまりカーブがきつくなればなるほど増えていく。
 それでは車両偏倚を求めてみよう。計算式は鉄道に関する教科書に載っているが、ここでは一般にも参照しやすいものとして島宗亮平、菊地隆寛、野元浩、大澤光行、「AC Trainにおける連節構造の採用」、「JR East Technical Review」1号、2002年、東日本旅客鉄道、38〜45ページの42〜43ページに掲載されているものを用いた。計算式は以下のとおりで、記号に関する注釈に説明を加えている。

W1=R-√{(R-D)2乗-(L1/2)2乗}
※D=R-√{(Rの2乗-(L0/2)2乗}
W2=R+√{(R+B/2-W1)2乗-(L2/2)2乗}-R-B/2

L0:固定軸距(1個の折れ曲がらない台枠または台車枠で左右遊びを特に付けない輪軸のうち、最前位にあるものと最後位にあるものとの車軸中心間の水平距離)
L1:台車中心間距離(ボギー車で前後の台車の回転中心間の水平距離)
L2:車体長(車体両妻外面間の水平距離)
B:車体幅(車体両側板の外面間の水平距離)
R:曲線半径
W1:曲線内方への偏り
W2:曲線外方への偏り

 東京地下鉄の前身の帝都高速度交通営団(営団)と東武鉄道、さらにはいまは実施していないが中目黒駅側で2013(平成25)年3月まで相互直通運転を実施していた東京急行電鉄との3鉄道事業者は1957(昭和32)年9月に「列車の相互直通運転に関する覚書」を取り交わす。同書には車両の寸法が記されており、固定軸距は2300mm、台車中心間距離は12000mm、車体長は不明だがいま日比谷線を走っている東京地下鉄の03系電車では17500mm、車体幅は2800mmだ。曲線半径の130mをmmに変換すると130000mmとなって、D=20.35mmからW1=158.90mm、W2=132.46mmと求められる。
 先ほど車両とトンネルとの間は200mmずつの余裕空間が設けられていると紹介した。つまり、半径130mのカーブでは車両偏倚によってこの余裕空間はカーブの内側では41.11mmへ、外側では67.54mmへとそれぞれ減ってしまう。これでは車両の走行状況によっては車体がトンネルに接触する可能性が生じる。
 そういうこともあろうかと営団はカーブの区間ではトンネルの幅を広げている。営団が著した『東京地下鉄道日比谷線建設史』(帝都高速度交通営団、1969年)の292ページにはトンネルの幅をどのくらい広くするかを算出する方法が記されている。半径800m以下のカーブに適用され、20000÷曲線半径(m)によって求められた数値(mm)がカーブの片側で広げるべき幅であるという。
 以上から、半径130mのカーブの場合、トンネルは車両の左側と右側とで153.85mmずつ、合計307.7mm広くなる。全長18mの車両が通過した場合、車両とトンネルとの間の余裕空間はカーブの内側で194.95mm、外側で221.39mmとなり、直線区間とほぼ同じ余裕空間が確保できた。

全長20mの車両が半径130mのカーブを曲がると……

 今度は全長20mの電車が半径130mの曲線を通過した場合の車両偏倚を求めてみよう。東京地下鉄8号線有楽町線や13号線副都心線で用いられている10000系という電車を例に挙げると、固定軸距は2100mm、台車中心間距離は13800mm、車体長は19500mm、車体幅は2800mmだ。計算するとD=16.96mm、W1=200.23mm、W2=161.55mmとなる。
 もともと設けられている200mmの余裕空間に153.85mmを加えた353.85mmからいま求められた車両偏倚を減じてみよう。全長20mの車両の場合、余裕空間はカーブの内側で153.62mm、外側で192.3mmとなる。
 カーブの外側の192.3mmはともかく、内側に残った153.62mmの余裕空間をどうとらえるべきであろうか。直線区間で設けられていた200mmと比べると46.38mm減っているが、考え方を変えれば「まだ」153.62mm残っているとも言える。いずれにせよ、全長20mの車両であっても走行自体は可能だ。半径130mのカーブでは車両の動揺をできるだけなくし、ただでさえ少ない余裕空間をこれ以上減らさないよう、制限速度を現状の30km/hからさらに下げるとか、軌道の狂いを極限まで低減するといった整備基準を立て、国土交通省関東運輸局長に伺いを立てなくてはならない。
 取材や調査ができなくて誠に恐縮ではあるが、車軸を曲線の中心に移動させる自己操舵台車も車両偏倚の低減に貢献できるのではないかと筆者は考える。何しろ、引用した計算式では「固定軸距」と明記されており、「移動軸距」とも言うべき自己操舵台車ならば車両偏倚はまた別の計算で求められるであろうからだ。

面倒を承知のうえで車両の全長を延ばす理由とは

 ところで、東京地下鉄と東武鉄道とはこのような面倒を承知でなぜ車両の全長を延ばすのであろうか。それは、ニュースリリースにある「将来のホームドア設置における課題を解消」という文言がカギとなる。
 旅客の安全を守る目的で近年急速に導入が進められているホームドアは、駅にやって来る車両の扉の位置や数がまちまちでは設置が難しい。新車の導入を機に統一できれば日比谷線の全駅にもホームドアが見られるようになるというのはニュースリリースに記されたとおりだ。
 ここまでであれば、電車の全長を18mから20mへと延ばす必然性は特に感じられない。扉の数と位置とを統一したければ、8両編成のうち、前後2両ずつに混在している5扉車両だけを取り換えるか、いまも行われているように、5扉のうち2扉を閉め切り、3扉車と同じ位置となる残る3扉を用いればよいからだ。
 ニュースリリースに記されていない点を補足しよう。東武鉄道伊勢崎線で用いられている通勤電車は日比谷線との相互直通運転用の電車を除いてすべて全長20mであり、側面の片側4カ所に扉が設けられている。したがって、今回の新車は日比谷線ではなく、伊勢崎線にホームドアを導入するとなったときに意味をもつ。
 これでようやく日比谷線に全長20mの車両が導入される理由がおわかりになったことであろう。来る新車は半径130mの急カーブを余裕空間を減らして走るのか、それとも自己操舵台車を付けるなどの施策を導入して車両偏倚を減らした車両となるのか、はたまた急カーブ区間のトンネルの幅を広げる大改造工事を実施するのか、その他の方法を採用するのか。答えは2016年度に明らかになる。


search this site.