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広田尚敬著、『鉄橋コレクション 変わりゆく風景、変わらない風景』ご購読の勧め

 2010年11月25日に講談社から『鉄橋コレクション 変わりゆく風景、変わらない風景』という名の書籍が発売となった。著者は鉄道写真のパイオニアにして第一人者の広田尚敬氏。B5判・175ページで発行は講談社、定価は3800円(税別)である。
 本書は、全国各地に点在する鉄道の橋梁の最も美しい姿を収めた写真集だ。広田尚敬氏の鉄道写真家生活60周年を記念して出版される写真集の第5弾だけ あって、本書に収録されている作品はおよそ半世紀の時間をかけて撮影したものから厳選されている。どのページを開いても、広田氏の唯一無比の感性と、超絶 とも言える技術とに裏打ちされた橋梁の写真が目に飛び込み、その迫力に圧倒されることは間違いない。
 僭越ながら、本書において筆者と史絵.は橋梁に関するデータの調査を実施し、同時に筆者は「鉄橋の豆知識」という拙文を執筆した。自らが手がけた著作物 ということもあり、本書を評するとどうしても宣伝がましく受け取られてしまう。だからといって本書を紹介しないのはあまりにも惜しく、鉄道業界そして出版 界においても大きな損失であると考えた。したがって、通常は認められない手法での紹介をお許しいただきたい。
 本書に収められた300余りの橋梁の作品の一つ一つは膨大な手間を要して撮影された。車両や列車の扱い、季節や天候の表現、背景の処理と、橋梁の一つ一 つにおいて広田氏がイメージしたとおりの姿になるよう、試行錯誤を重ねた末に記録されたものである。その点については、本書に所収の橋梁を実際に訪れてい ただければおわかりになるだろう。実物の橋梁は広田氏が撮影した作品のようにはまず見えないからだ。
 筆者は橋梁のデータ作成に当たり、まずは橋梁の名称を確定させる作業から取りかかった。その際に大いに参考になったのは、社団法人土木学会が発表した歴 史的鋼橋のデータベースである。だが、広田氏の撮影記録から明らかに同一の橋梁だと思われたにもかかわらず、作品に写し込まれた橋梁の姿と学術的に撮影さ れた橋梁の姿とがあまりに違いすぎて、名称の確定に困難を来したものも多く現れた。まさに広田氏でなければ写し得なかった橋梁の姿が収められている事実の 証左である。
 手前味噌となるが、広田氏の作品の迫力に負けぬよう、本書は橋梁のデータの項目にさまざまな要素を盛り込み、万全を期した。長さはもちろん、構造や材 質、架設年月といった点だ。特に下部構造、つまり橋梁の基礎部分についての詳細はこの種の書物で触れられることは少なかったので、興味深くお読みいただけ るのではないかと自負している。
 今回の調査に際し、ご多忙にもかかわらず、橋梁のデータをご提供いただいた鉄道事業者、軌道経営者各位のご尽力には改めて感謝の意を表したい。懇切丁寧なご回答から、いかに鉄道の当事者たちが橋梁というものを大切にしているかを再認識することができた。
 余談だが、鉄道事業者、軌道経営者各位のなかには、自らが所有する橋梁が広田氏の写真集に取り上げられることを光栄だととらえ、感謝の言葉を口にされた ところも数多い。広田氏がこれまでいかに鉄道界の発展に貢献してきたかを示すエピソードであるとともに、氏の人徳が多くの人々に理解されていることに当方 も史絵.も幸福な気分となった。
 間もなく2010年も暮れようとしている。引き続き本年も数多くの鉄道書が世に送り出された。恥ずかしながら筆者も史絵.との共著を含めて5冊を上梓し た。それらのなかでも本書はひときわ輝く存在だと言える。鉄道に興味を抱いておられる方、近代産業遺産に深い関心をお持ちの方にはまさに必携の書である。 本書が一人でも多くの皆様の目に触れ、作品を通じて橋梁ひいては鉄道そのものの魅力に感じ入っていただければ、関係者としてこれに勝る幸せはない。
  • 2010.12.27 Monday
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