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リチウムイオン充電池と鉄道

便利なリチウムイオン充電池にも落とし穴が

 携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコン――。いまやリチウムイオン充電池は日常生活に欠かせない。筆者自身、リチウムイオン充電池に囲まれた生活を送っているが、どのようなものなのかはよくわからないので、清水博之氏の「電池&充電池を使いこなそう ニッケル水素VS.リチウムイオン」というホームページを紹介しよう。この記事によれば、リチウムイオン充電池は「自己放電が非常に少な」く、「メモリー効果(浅い深度の放電を含む充放電が繰り返し行われると、一時的に放電電圧が低下して正常な容量が取り出せなくなる現象)がない」。しかも、「小型でありながら大容量の電気を蓄えられ」、「軽い」という特長をもつという。
 ところが、リチウムイオン充電池には大きな欠点がある。充電の際に膨張するという特性をもつため、充電し過ぎると発火や爆発の危険性が高まるのだ。とはいうものの、通常は充電池の内部に膨張を抑えるための保護回路、そして充電器にも過充電を監視して充電を打ち切る機能がそれぞれ組み込まれているので安心して使うことができる――。
 と断言したいところだが、リチウムイオン充電池はなかなかデリケートな製品らしく、発火事故が結構多い。写真家の広田尚敬氏が記された2008(平成20)年1月2日付けの「広田尚敬の鉄道コラム」によると、購入したばかりのDVDプレーヤーに用いられていたリチウムイオン充電池が発火事故を起こしたとあった。詳しい状況を見ると、発火というよりも爆発と言ったほうがよい。ともあれ、けがや火災につながらなかったのは不幸中の幸いだ。

ハイブリッド車両に搭載されたが、車両用蓄電池としては課題が山積

 この発火事故について筆者もコメントを寄せ、そのなかでリチウムイオン充電池が鉄道にも使用されている点を指摘した。鉄道とリチウム充電池との関係について、その後も調べてみたので報告したい。
 リチウムイオン充電池を採用した鉄道車両の代表格として挙げられるのはJR東日本のキハE200形(http://www.jreast.co.jp/press/2007_1/20070704.pdf)である。JR東日本が「世界初のハイブリッド車両」と銘打ったこの車両の屋根の上には15.2kWhの容量をもつリチウムイオン蓄電池が搭載された。定格出力95kWのMT78形主電動機を駆動するだけの電力を取り出すことができる。
 実はキハE200形がリチウムイオン蓄電池を搭載しているのはとても画期的な出来事なのだ。ハイブリッド車と聞いて多くの方が頭に思い浮かべる存在といえば、トヨタ自動車のプリウスという乗用車だろう。プリウスのスペック(http://toyota.jp/prius/spec/spec/)を見ると興味深い事実に気づく。ハイブリッド車の要とも言える充電池にニッケル水素電池を用いているのだ。つまり、電池の面ではJR東日本はトヨタ自動車よりも進んだ技術を導入したのである。
 新聞記事などによると、トヨタ自動車もハイブリッド車の充電池をリチウムイオン電池としたかったらしいのだが、コストや安全性の理由などで見送ったのだという。コストはともかく、安全に問題があると言われると、それではキハE200形は大丈夫なのかと心配となる。
 鉄道車両に搭載されている充電池に関する資料を探したところ、「鉄道と電気技術」(日本鉄道電気技術協会)の2005年2月号に掲載された「現用の鉄道車両用蓄電池の概要および新しい鉄道用リチウムイオン二次電池の開発」という記事が見つかった。電池メーカーのジーエス・ユアサコーポレーションの研究開発センター第三開発部の村田利雄氏の執筆によるものだ。
 この記事によれば、鉄道車両には停電時やバックアップ用の電源として車両用蓄電池が搭載されているという。よく鉄道趣味誌の新車記事を見ると、バッテリーなどと記されており、これを指す。読み進めてみると、車両用蓄電池の歴史は鉛蓄電池に始まり、アルカリ蓄電池へと進化したという。そして、現在はアルカリ蓄電池のなかでもモノブロック焼結式アルカリ電池が主流なのだという。
 ジーエス・ユアサコーポレーションが電車用に供給しているモノブロック焼結式アルカリ蓄電池のQFYM形は10機種ある。5時間使用時の定格容量ごとに分けられ、7.5Ahから100Ahまでの能力をもつ。そのうちの30Ahのものは質量が約114kgと巨大だ。
 いっぽう、同社が開発した鉄道用大型リチウムイオン二次電池は容量55AhのLIM55H形と同じく60AhのLIM60H形の2種類だという。どちらも質量は約4kgしかない。実際に車両用蓄電池として使用するためにはLIM55H形、LIM60H形とも7個組み合わせる必要があるが、それでも約28kgである。何ごとにも小型軽量化が求められる鉄道車両用の機器のなかにあって、リチウムイオン充電池は確かに魅力的な存在だ。
 とはいうものの、筆者が調べた限りでは停電時やバックアップ用の車両用蓄電池としてリチウムイオン充電池を採用した車両はまだ登場していない。最も大きな理由はコスト面でによるものと思われるが、安全性の問題もあるのだろう。
 放熱性に優れた屋根上という「一等地」を確保してもらったキハE200形のリチウムイオン蓄電池と異なり、通常の車両用蓄電池は床下に搭載される。主電動機やディーゼル機関などから生じる熱がこもりやすく、しかも振動や衝撃も激しいとなると、実績のないリチウムイオン充電池の採用に踏み切るのは時期尚早なのかもしれない。
 逆に言えば、キハE200形はずいぶん思い切った施策を採ったと言える。先ほど「画期的」と記したのもこの点を踏まえてのものだ。本来ならば、JR東日本も安全面に不安のあるリチウムイオン蓄電池を採用したくなかったのかもしれない。だが、ニッケル水素蓄電池やアルカリ蓄電池では重すぎて車両を成り立たせることができなかったのだろう。
 筆者はリチウムイオン充電池が危険だとことさらあおり立てるつもりはない。ただし、発火事故が身近に起きている現状を見ると、どうしても不安となる。恐らく、キハE200形に搭載されたリチウムイオン蓄電池は電池メーカーの威信をかけて開発したものだから、製造上の問題はまずないはずだし、メンテナンスの体制にも万全を期しているに違いない。しかし、電池メーカーの手を離れ、鉄道事業者や軌道経営者だけで使用するとなるとどうなるのだろうか。実用化までにはまだいくつか解決しなければならない課題が山積していると言える。


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