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上越新幹線と冬

雪に悩まされない新幹線

 「鉄道よもやま話」では2008(平成20)年最初のテーマとして上越新幹線を取り上げたい。読者の皆様のになかには冬の上越新幹線を利用された方も多いことだろう。豪雪地帯を行く上越新幹線の円滑な運転は沿線に設けられたスプリンクラーをはじめとする消雪設備によってもたらされている。おかげで、開業以来、上越新幹線は大量の積雪に見舞われても大きな遅れもなく列車が運転されてきた。上越線の列車がしばしば雪に悩まされてきたことを思うと上越新幹線のありがたさが身に染みる。「新幹線の旅は味気ない」などと言っては罰が当たるだろう。
 冬の上越新幹線の風物詩といえば線路際で豪快に散水を行うスプリンクラーである。上越新幹線の場合、スプリンクラーは上毛高原駅から新潟駅までの間、さらに新潟駅から車両基地のある新潟新幹線車両センターまでの間にも設置された。スプリンクラーに使用される水は沿線の河川または大清水トンネルの湧水だ。これらは沿線各所に設けられた消雪基地で気温、降雪状況に基づいて一定の温度(3.5〜45.2度)まで温められ、バラスト軌道区間ならば1平方m当たり1分間に1.2リットル、スラブ軌道区間ならば同じく0.7リットルそれぞれ散水される。まき終わった水はリサイクルされ、ゴミなどを濾過した後、再び温められて雪を取り除く。

融雪費用はいくら

 ただいまの大ざっぱなあらましからもおわかりのとおり、これら一連のサイクルには多大なエネルギーを消費する。水を汲み上げ、スプリンクラーまで送り、回収、濾過するためには電力が、さらには適温まで加熱するためには灯油または都市ガスが必要だ。
 当然といえば当然かもしれないが、JR東日本は上越新幹線の融雪費用を公表していない。筆者の手元には1983(昭和58)年3月15日付けの日本経済新聞朝刊の記事があり、ここには国鉄がまとめた上越新幹線の融雪費用が掲載されていた。ここから現代の融雪費用を推理することとしよう。
 新聞記事によると、1982(昭和57)年12月1日から1983年2月28日までに国鉄が支払った融雪費用の総額は14億1900万円だったそうだ。総務省統計局が発表した「消費者物価指数戦前基準東京都市部指数(持家の帰属家賃を除く総合)」に基づいて現在の貨幣価値に換算すると約16億6692万円である。
 内訳は、灯油代が966万1000リットルで8億200万円(同約9億6458万円)、電力代が1410万9000kWhで4億4300万円(同約5億2111万円)、都市ガス代が76万4000立方メートルで8000万円(同約9411万円)、重油代が114万3000リットルで9400万円(同約1億1057万円)だ。このなかで、重油はスプリンクラーを動かすためには用いられず、駅舎や車両基地等の屋根に積もった雪を取り除くために用いられる。
 仮に2007(平成19)年から2008年の冬の気象条件が1982(昭和57)年から1983年にかけてのものと同じであれば、基本的にはエネルギーの消費量は同じとなるはずだ。ちなみに、1982年から1983年にかけての冬は暖冬だったという。今シーズンはどうなるのかは不明だが、当初国鉄は1982年から1983年にかけての冬が平年どおりの気候であれば融雪費用に41%増しの20億円(同約23億5000万円)を見積もっていた。つまり、エネルギーの消費量も41%分増えると考えればよいだろう。
 まずは灯油の価格だ。財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センターによると、2007(平成19)年12月25日現在、新潟県内での灯油の店頭価格は18リットル当たり1750円だという。1リットル当たり97.2円であるから、966万1000リットルならば9億3904万9200万円だ。
 続いては電力代を計算してみた。本来ならば新潟県内に電力を供給している中部電力の料金表から算出すべきだが、当ホームページではおなじみの『平成17年度 鉄道統計年報』(国土交通省鉄道局監修、政府資料等普及調査会、2007年3月)の500ページにはJR東日本が運転用電力として消費した電力の数量(39億7226万9177kWh)と代価(395億6151万4000円)とが記されている。こちらのほうがより正確な価格が引き出せるだろう。
 計算してみると、JR東日本は1kWh当たり9.9円を支払っていた。この数値を当てはめると電力代は1億3967万9100円である。
 都市ガス代も計算してみよう。新潟県内に都市ガスを供給している北陸瓦斯株式会社の2008年1〜3月の料金表によれば、1カ月に350立方mを超える使用量の顧客に対し、月額の基本料金は3133.20円、1立方m当たりの料金は93.38円だそうだ。
 基本料金は12月から翌年2月までの3カ月間を支払うことになるので9399.6円。これに76万4000立方メートルを使用した7134万2320円を足して7135万1719.6円となり、1円未満の端数を切り捨てて7135万1719円となる。
 最後は重油代だ。先ほどの財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センターは2007年11月のA重油の価格を最新のものとして公表していた。それによると、新潟県を含む関東局管内では大型ローリー(8000リットル以上)で納入した場合は1リットル当たり72.7円、小型ローリー(8000リットル未満)ならば78.9円だという。使用している量から言って大型ローリーで運ばれると考えられるので、1リットル当たり72.7円を採用すると、8309万6100円という数値が得られる。

1日当たり1370万1957円で得られる「平常通りの運転」

 灯油、電力、都市ガス、重油の代価をすべて合わせると12億3317万6119円となった。12月1日から2月末日までの日数は90日(閏年なら91日)だから、1日当たり1370万1957円である。不思議なことに国鉄時代の14億1900万円よりも安くなっており、昨今の原油高を考えると不思議に思えてしまう。よく見ると、当時と比べて灯油代や重油代は上昇しているが、電力代や都市ガス代はむしろ下がっているからだ。いずれにせよ、これは暖冬だからこその数値であり、もしも平年並みの冬であれば、41%増の17億3877万8327円と考えたほうがよいだろう。
 本稿を記したのは2008年1月3日(木)の未明である。この前日、つまり1月2日(水)も上越新幹線は当然のことのように「平常通りの運転」が行われていた。「どんな豪雪に見舞われてもまずもってびくともしない――」。当たり前のようで果てしなく困難な作業を上越新幹線は今日まで成し遂げてきたのである。


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