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『鉄道用語の不思議』の未収録原稿から その2

カルダン軸駆動装置

 前回の当欄、「つり掛式支持装置」で説明したとおり、電動機台車装架駆動装置の究極的な形態は台車枠だけで主電動機を支える方式である。この理想を実現するため、カルダン軸駆動装置が開発された。
 カルダン軸駆動装置とは、主電動機軸と小歯車との間に継手を設け、この継手をたわませることで線路からの衝撃や振動を吸収させる仕組みだ。JISは「台車枠に装架した主電動機と駆動用歯車装置との間にたわみ軸継手を挿入して駆動力を伝達する装置。」(JISE4001の番号32108)と定義している。対応英語は「cardan shaft driving device」だ。
 世界で初めてこの装置が搭載されたのは1936(昭和11)年にアメリカ合衆国の各都市に登場したPCC(Presidents' Conference Committee、経営者協議委員会)カーと呼ばれる路面電車である。1920年代後半、全米の路面電車の経営者たちはPCCを結成。次世代路面電車の共同開発に取り組む。カルダン軸駆動装置はその過程で開発され、約5000両ものPCCカーに搭載された。
 装置名の「カルダン(cardan)」とは発明者の名にちなんだものといわれているが、資料を見る限り、PCCのメンバーにも技術者にもカルダンなる人物は見当たらない。それもそのはず、米国ではたわみ軸継手をカルダンジョイントと呼んでいて、この機構を採用したことからそのように命名したまでなのだ。なお、JISでいうカルダン軸、英語名でカルダンシャフトとは、たわみ軸継手を軸の両端または一端に取り付けた軸を指す。
 たわみ軸継手を発明した人物は16世紀のイタリアの数学者、医学者、占星術師であるジェロニモ・カルダノ(Geronimo・Cardano、1501〜1576)である。文献によってはジェロニモではなくジェロラモ(Gerolamo)ともいう。カルダノはたわみ軸継手の実物をつくりはしなかった。しかし、著書にその理論が掲載されており、後に実用化に成功した学者や技術者がカルダノからカルダンと名付けたのだ。
 戦後、日本でもPCCカーを手本にこぞってカルダン軸駆動装置の開発に着手する。この装置を最初に搭載したのは電車ではなく、意外にも気動車だった。1952(昭和27)年に国鉄から登場した電気式ディーゼル動車のキハ44000形である。
 1953(昭和28)年になると民鉄各社からカルダン軸駆動装置を採用した電車が続々と登場。乗り心地はよく、軌道への影響も少ないと好評で以後爆発的に普及する。1960(昭和35)年ごろまでには国内向けに製造された電車のほぼすべてにカルダン軸駆動装置が装着されるようになった。
 カルダン軸駆動装置は車軸に対して主電動機をどのように配置するかによって直角カルダン駆動装置(同番号32109)と平行カルダン装置(同番号32110)の2種類に分類される。車軸に対して主電動機を直角に配置するのが直角カルダン駆動装置、平行に配置するのが平行カルダン装置だ。
 直角カルダン駆動装置はPCCカーに採用され、いわばカルダン軸駆動装置の元祖である。日本でもキハ44000形や東京急行電鉄の5000系電車(1954年登場)、相模鉄道の電車などに搭載されていたが、近年は採用例が少ない。
 現在の主流は平行カルダン装置だ。この装置はたわみ軸継手に歯車形たわみ軸継手(同番号32113)を用いたものと平板形たわみ軸継手(同番号32114)を用いたものの2種類に分類される。筆者の拙い説明よりもJISの定義のほうがわかりやすい。前者は「主電動機軸と減速歯車装置の小歯車軸との間の相対変位にかかわらず動力伝達を行うたわみ軸継手で,内歯車とクラウニングを施した外歯車とを組み合わせたもの。」、後者は「主電動機軸と減速歯車装置の小歯車軸との間の相対変位にかかわらず動力伝達を行うたわみ軸継手で,二組のたわみ板を組み合わせたもの。たわみ板継手(中空軸平行カルダン駆動装置用)とTD継手(中実軸用)とがある。」である。
 以上から、平行カルダン装置には歯車形たわみ軸継手平行カルダン装置(同番号32112)と平板形たわみ軸継手平行カルダン装置とが存在するはずだが、前者はJISで定義されているものの、後者はJISにはない。その代わり、JISは後者に含まれるものとして中空軸平行カルダン駆動装置(同番号32111)を定義し、TD継手を用いたものは開発されたばかりということもあり、まだ命名していない。いずれ用語として定義されるはずだが、本稿ではTD継手平行カルダン駆動装置と呼ぶこととしよう。
 歯車軸たわみ軸継手平行カルダン装置は新幹線から在来線、民鉄まで一般的に採用されている。補足すると、歯車軸たわみ軸継手の定義で現れるクラウニングとは傾斜を付けることを指す。内歯車と外歯車とがかみ合いながらもある程度は角度の変化を許容する方式だ。JISでは慣用語としてWN継手、対応英語としてWN gear couplingと定義している。WNとはこの機構を開発したウエスチングハウス(Westinghouse)社とナタール(Nuttall)社の頭文字を組み合わせたもの。WN継手を用いれば平行カルダンだと判明するため、WNカルダンと略されることも多い。
 中空軸平行カルダン装置は国鉄形の電車に大量に採用された。主電動機軸が中空になっていて、その内側にはねじり軸を貫通させ、両端にたわみ板継手を取り付ける仕組みだ。主電動機軸の出力は小歯車とは反対側に設けられたたわみ板継手を介してねじり軸へと伝えられ、主電動機と小歯車との間にあるもう一つのたわみ板継手を経由して小歯車へと向かう。歯車軸たわみ軸継手よりも幅が狭くて済むという長所をもつのだが、直流電動機から小さな誘導主電動機が主流となったため、あまり採用されなくなった。
 TD継手平行カルダン駆動装置とは歯車軸たわみ軸継手の代わりにTD継手を設けたものと考えるとわかりやすい。たわみ板は中空軸平行カルダン駆動装置のものよりも幅が広く、2枚の円筒を組み合わせたかのように見える。この形状からツインディスク(Twin Disc)と名付けられ、略してTDと呼ばれるようになった。歯車軸たわみ軸継手と比べると惰行時の騒音が小さいため、ここのところ主流となりつつある。
 鉄道用語としてカルダン軸駆動装置を考えると2つの問題点にたどり着く。1つは同じ構造であるにもかかわらず、鉄道事業者や軌道経営者、車両や機器メーカーがまちまちな呼び方をしているという点。もう1つはカルダン軸駆動装置ではないものまでこの仲間に入れているという点だ。
 最初の問題から見てみよう。筆者の見たところ、別名が多いのは多いのは歯車形たわみ軸継手平行カルダン駆動装置である。鉄道趣味6誌からランダムに取り上げると、「可とう歯車付き1段歯車付き減速」(国鉄200系新幹線電車)、「平行カルダン歯車たわみ軸継手」(JR東海700系新幹線電車、JR東日本E2系新幹線電車)、「歯車型継手式平行カルダン軸駆動 WN継手」(名古屋鉄道2200系電車)といったところだ。
 鉄道事業者の発表どおりに記載しているためにこのような現象が発生するのだろう。恥ずかしながら、筆者もJISの定義する名称で記載するようになったのは最近のこと。それまでは鉄道会社やメーカー各社の資料どおりに記述していた。しかし、どのような装置なのか一目でわかるよう、今後は歯車形たわみ軸継手平行カルダン駆動装置に統一しなくてはならない。
 続いての問題の代表例はクイル駆動装置(同番号32106)である。この装置は1960年代初頭の国鉄の電気機関車に採用されていたが、すでに国内では見ることができない。したがって、近年は鉄道趣味6誌でクイル駆動装置自体が取り上げられる機会がないものの、かつては多数の記事中でカルダン軸駆動装置の一種であるかのように取り上げれていた。
 仕組みは次のとおりだ。主電動機は台車枠だけで支えられ、小歯車は主電動機軸に直接取り付けられている。いっぽう、大歯車は車軸とは直結していない。クイルと呼ばれる中空軸を介して取り付けられている。車軸とクイルとの間にはあえてすき間が設けられ、線路からの衝撃と振動とをここで吸収しているのだ。もちろん、このままでは出力を伝えることができないから、大歯車と車軸とはスパイダと呼ばれるアーム状の部品によって固定されている。
 以上の説明でご理解いただけたことだろう。クイル駆動装置を構成する部品にたわみ軸継手は含まれていない。したがって、カルダン軸駆動装置の一種と見なすのは明らかに誤りである。台車枠だけで主電動機を支えている点に気を取られ、まぎらわしい記述となってしまったのだろう。
 最近の混同例は、日本で初めてカルダン軸駆動装置の量産化に成功した東洋電機製造の発表したニュースリリース中に見ることができる。同社は2004(平成16)年3月12日、長崎電気軌道に超低床路面電車の3000形を導入したと発表した。3000形電車は直角カルダン駆動装置を採用しているというものの、記事をよく眺めてみると、主電動機は車体に装架されているという。
 JISの趣旨を解釈すると、主電動機軸と小歯車との間にたわみ軸継手を設置しているという点はもちろん、主電動機を台車枠だけで支えている点にも着目し、両者を満たしている場合にのみカルダン軸駆動装置と呼ぶことに定めた。もしも3000形電車のような構造をこの仲間に含めてしまうと、車体にディーゼル機関を搭載するディーゼル機関車や気動車もカルダン軸駆動装置と呼ばなくてはならない。というのも、これらの車両の動力伝達装置にもたわみ軸継手は採用されているからだ。
 東洋電機製造は1953(昭和28)年に日本で初めて電車用のカルダン軸駆動装置の実用化に成功し、京阪電気鉄道の1800系電車に搭載したメーカーである。それだけに同社が右と言えば皆右というほどの影響力をもつ。実際、鉄道趣味6誌も3000形電車は直角カルダン駆動装置を採用していると記載したほどだ。
 このような誤りはなかなか訂正できない。あるいは車体に主電動機を搭載していてもカルダン軸駆動装置と呼ぶように改めることも考えられるが、この装置の趣旨から言ってそれも無理だろう。

カルダン軸駆動装置についてのまとめ


1.主電動機を台車枠だけで支え、主電動機軸と小歯車との間にたわみ軸継手を設けた動力伝達装置。
2.直角カルダン駆動装置、平行カルダン駆動装置とに大別され、さらに、平行カルダン駆動装置には歯車形たわみ軸継手平行カルダン駆動装置、TD継手平行カルダン駆動装置、中空軸平行カルダン駆動装置の3種類が存在する。
3.主電動機を台車枠だけで支えているという点でクイル駆動装置はカルダン軸駆動装置と似ているが、両者は全く異なるものだ。また、電動機車体装架駆動装置の一種としてもとらえられているが、同様に全く異なる。


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