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夏と鉄道

外が暑ければレールも伸びる

 今年(2007年)の夏はとても暑い。口に出していうのもはばかれるほどだ。異常気象もここまで来ると寒気すら感じてしまう。
 筆者のもとにも今年の夏を象徴するような仕事が舞い込んだ。8月15日(水)の14時10分ごろ、東武鉄道東上線(正式名称は東上本線)武蔵嵐山(らんざん)-小川町(おがわまち)間(埼玉県比企郡小川町)のレールが約10cmも伸び、その結果、線路が外側に約5cmもずれる事件が発生した。この事件について、テレビのニュース番組でコメントせよというものだ。番組名はフジテレビ系列の「めざましテレビ」でオンエアは8月17日(金)午前6時15分ごろからおよそ3分程度であった。
 ありがたいことに、写真家の広田尚敬氏が主宰される2007年8月17日付けの「広田尚敬の鉄道コラム」(http://tetsudoshashin.com/colum/index.html)で事前に紹介していただいている。このため、早朝の放映時間帯ではあったものの、ご覧になられた方もいらっしゃるかもしれない。
 通常の当欄とは異なり、今回はあまりくどくど記すのはやめておこう。ただでさえ暑いうえに記事まで暑苦しいのでは不快極まりないだろうからだ。筆者のコメントをまとめさせていただこう。レールとは気温によって伸縮するものだが、今回は厳しい暑さによってレールの温度が急激に上昇し、結果として異常に伸びてしまった。対策としてレールの温度管理が重要で、もしも温度か上昇してしまえば冷却するしか方法はないと付け加えている。

レールの伸びすぎを防ぐため、温度を厳密に管理

 東上線のような事態にならないよう、鉄道事業者と軌道経営者はレールの温度を管理し、規定以上となったら徐行や運転中止といった措置を取るケースが多い。筆者の手元には『東海道新幹線の保線』(田中宏昌、磯浦克敏編、日本鉄道施設協会、1998年12月)という書物があり、コメントを収録する際に東海道新幹線の運転規則も紹介したのだが、放送ではカットされてしまった。現在もそのままかどうかは未確認だが、481〜483ページから引用させていただこう。
 東海道新幹線の場合、規制が必要なレールの温度は、道床横抵抗力(「バラスト道床中のまくらぎが水平移動するときに生じる抵抗力。軌道と直角方向のものを横抵抗力,軌道方向のものを縦抵抗力と呼ぶ。」JISE1001の番号601)に応じて定められている。道床横抵抗力が700kgf/まくらぎ1本(6.865kN/本)以上900kgf/本(8.825.6kN/本)未満の区間では、48℃以上で温度観測、53℃以上で特別巡回、58℃以上で70km/hに徐行、60℃以上で運転中止、900kgf/本以上の区間では50℃以上で温度観測、60℃以上で70km/hに徐行、64℃以上で運転中止だ。
 無道床の橋りょう区間では異なる運転規則が設けられた。道床横抵抗力が900kgf/本以上1100kgf/本(10.787kN)未満の区間では48℃以上で温度観測、53℃以上で特別巡回、58℃以上で70km/hに徐行、60℃以上で運転中止、1100kgf/本以上の区間では50℃以上で温度観測、60℃以上で70km/hに徐行、64℃以上で運転中止である。
 東海道新幹線に多い鋼鉄製のトラス橋は見てくれはよいものの、レール温度に関する運転規則を見る限り、道床横抵抗力を高めてもバラスト道床区間よりも温度管理をシビアに実施せざるを得ない。その意味では無機質ではあってもコンクリート橋が優れているといえる。

暑い車内は長いダクトのせい

 さて、当ホームページでも何度か紹介している東良美季さんの「毎日jogjob日誌」(http://jogjob.exblog.jp/)の8月16日(木)付けのブログを拝見すると、当日の13時ごろ新大阪駅を発車する「のぞみ」のグリーン車に乗り、東京駅まで戻られたとあった。車内には「『途中、猛暑のため車内冷房の効きが悪く申し訳ありません』というアナウンスが何度も流れ」たという。
 観測史上1位の40.9度を記録した岐阜県多治見市の近くを走行していたのだから、確かに冷房が効かなくなったのかもしれない。だが、筆者はこの話を目にしてどんな車両が使われていたのかすぐにわかった。300系である。この系列は床下に1両当たり5万kcal/h(58.15kW)の能力をもつ空気調和装置が搭載されているのだが、総じて冷房の効きが悪い。車体の側面に設けられたダクトを通じて冷風が床下から天井まで運ばれる間に直射日光によって暖められてしまうからだ。
 特に初期バージョンであるJR東海所有のJ編成J1〜J15編成(J1〜J5編成は1次車、J6〜J15編成は2次車)やJR西日本所有のF編成F1〜F5編成(1次車)の車内は暑くなりがちだ。登場以来、空気調和装置の制御装置と圧縮機を駆動するインバータとの間の伝送不良に始まり、圧縮機自体の不良やコンデンサが磁気を帯びるなどして冷房能力が落ち、そのたびに対策を施したのだが、根本的には車体の側面に張られている側板(がわいた)やダクトを取り換えなければ直らないらしい。このため、一部の300系の編成は多客期を除いて夏季には営業に就いていないのだそうだ。とはいえ、書き入れ時には車両をフルに活用して旅客を輸送しなければならないから、運が悪いとこのような編成に乗らざるを得なくなる。筆者は2004(平成16)年10月1日に名古屋から東京まで確かJ11編成に乗ったのだが、秋だというのに車内はうだるような暑さだった。
 300系の改良版である700系は、床下にある空気調和装置の能力を5万3000kcal/h(61.639kW)へと高めている。そのうえ、ダクトを短縮して冷風を天井からではなく、荷棚の下から出るように改めた。JR東海によれば、外気温が40℃のなかを走行しても快適な車内空間となるように700系を設計したのだそうだ。

 もうこれ以上記すのはよそう。あまりくどくは記さないと冒頭で申し上げたにもかかわらず、非常に暑苦しい文章となってしまった。一点ご理解いただきたいのは、とかく鉄道というと冬季の対策ばかりが目立つのだが、夏への備えも実施されているという点だ。今後、夏の気温はさらに上昇するといわれる。いまの施設や車両のままでは対処できない時代が到来するのかもしれない。また、寒気がしてきた。


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