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合理化と運転事故との関連性を探る

1km当たり何円で列車は走るのか

 今回は、列車を1km走らせるのに必要な経費、そして1件の運転事故は列車がどれだけの距離を走行すると起きてしまうのかを調べ、鉄道会社の合理化について考えてみたい。例によって『平成15年度 鉄道統計年報』(国土交通省鉄道局監修、政府資料等普及調査会、2005年3月)を使用する。参照したのは66ページ〜79ページの「(4)営業キロ及び走行キロ表(2)」、632ページ〜635ページの「(23)JR旅客会社、大手民鉄及び地下鉄事業者の基準単価及び基準コストの算定に係るデータ一覧」、598ページ〜613ページの「(19)運転事故調査票」だ。
 車両や列車を運転するための経費は運送費と呼ばれる。その内訳は線路保存費、電路保存費、車両保存費、運転費、運輸費、保守管理費、輸送管理費だ。これらは鉄道事業会計規則(昭和六十二年二月二十日運輸省令第七号)で定められた勘定項目である。保存費とは維持補修に要する作業費、管理費とは作業管理などに要する費用を表す。言い換えれば、費用のうち、現業部門のものは保存費、本社部門のものは管理費である。
 いくつか補足しておこう。電路保存費とは架線など電車線路と呼ばれる設備や変電所、通信機械などの維持補修に要する作業費を指す。運転費には運転士や車掌などの人件費や車両が用いる動力費などが含まれる。駅員の人件費や自動改札機のメンテナンス費など、駅に関する費用が計上されているのは運輸費だ。
 JR旅客会社6社と大手民鉄16社をモデルに列車キロと運送費との関係を表1にまとめてみた。筆者の予想よりもばらつきが目立ち、その差はJR旅客会社内、大手民鉄内ともに大きい。



 この数値が1000円台と低かったのは名古屋鉄道、西日本鉄道、JR四国、近畿日本鉄道、JR九州、阪神電気鉄道、南海電気鉄道の7社だった。前回取り上げた「現業部門の職員1人が受け持つ1日当たりの列車キロ」との関連が見られる。この数値が30km以上を記録しているとして取り上げた阪急電鉄、近畿日本鉄道、西日本鉄道、名古屋鉄道、JR九州の5社のうち、阪急電鉄を除く4社の数値は1000円台だ。
 現業部門の職員数を減らせば人件費も減り、運送費も減少するので驚く必要はない。「列車キロ1km当たりの運送費」の平均値である2976円以下である鉄道会社が22社中、17社に達している点に着目すべきだ。むしろ、平均値を上回っている帝都高速度交通営団(現在の東京地下鉄)、JR東海、東京急行電鉄、JR東日本、相模鉄道の5社に何か特別な事情が隠されているのかもしれない。

運転事故の統計から判明する意外な事実

 続いて深刻な数値を紹介しよう。表2をご覧いただきたい。列車の走行距離と運転事故との関係をまとめたものだ。国土交通省は列車の走行距離100万km当たりの運転事故件数としているが、これでは少々わかりにくい。そこで運転事故1件当たりの列車走行キロ、つまりどれだけ列車が走れば事故が起きるのかという生々しいデータを算出することとした。
 運転事故とは鉄道事故等報告規則(昭和六十二年二月二十日運輸省令第八号)と軌道事故等報告規則(昭和六十二年三月二十七日運輸省建設省告示第一号)とによって規定されたものだ。前者には列車衝突事故、列車脱線事故、列車火災事故、踏切障害事故、道路障害事故、人身障害事故、物損事故、後者には車両衝突事故、車両脱線事故、車両火災事故、踏切障害事故、道路障害事故、人身障害事故、物損事故のそれぞれ7種類ずつがある。
 これらの規則を読むと、運転事故とは鉄道会社の過失の度合いには関係なく国土交通省に報告すべきもののようだ。ところが、統計を見る限り、一部の鉄道会社は飛び込み自殺を運転事故として扱わず、報告も行っていない。表2によって評価を下す際には注意が必要だ。なお、運転事故については近々、国土交通省に問い合わせることとしたい。



 こちらもばらつきが顕著だ。最も短いJR四国の56万3892kmと最も長い東京急行電鉄の846万0500kmとの間には実に15倍もの格差が生じている。なお、京王電鉄の0件は非常に優秀な数値であり、尊敬すべきではあるものの、前述のとおり、飛び込み自殺等が計上されていないようなので比較の対象とはしなかった。
 表2から「運転事故1件に対する列車キロ」が100万kmを割り込んでいる鉄道会社を短い順に挙げると、先ほどのJR四国、京阪電気鉄道、阪神電気鉄道、JR九州、西日本鉄道の5社だ。あえてどことは言わないが、毎回似たような顔ぶれが集まっているとお気づきになった方も多いことだろう。
 列車キロと比較して現業部門の職員数や運送費が少ない鉄道会社は、1件の運転事故を起こすまでの列車キロも短い傾向にある。前回のデータとも照らし合わせると、「現業部門の職員1人が受け持つ1日当たりの列車キロ」が30km以上であり、なおかつ「列車キロ1km当たりの運送費」が2000円未満で「運転事故1件に対する列車キロ」が100万km未満でもある鉄道会社の合理化は「行き過ぎ」であると言わざるを得ない。
 前回と今回とで用いた3点の表から、週刊誌の見出しのように「危険な鉄道会社ランキング」のたぐいを作成することは容易だ。しかし、これには意味がない。確率がどうあろうと、運転事故によって引き起こされた悲劇の大きさに変わりはないからだ。
 筆者は、安全性を損ねてまで鉄道事業を成り立たせているものの正体を探るほうが重要だと考える。「行き過ぎ」た合理化を求めているのは鉄道会社だけではないはずだからだ。時間はかかると思われるのだが、調査が進んだ段階で結果を報告していきたい。

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