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N700系と初期故障

 おかげさまで、2007(平成19)年6月3日に記した「N700系から見るJR東海とJR西日本との関係」は多くの方にご覧いただき、感謝に堪えない。また、「Rail Magazine」(ネコ・パブリッシング発行)2007年8月号の拙稿「7月1日デビューのN700系量産車で東京から博多へ」も編集部によればご好評をいただいているらしい。
 2007年7月1日にデビューしたN700系は、東海道、山陽新幹線の車両としては1999(平成11)年3月13日に営業を開始した700系以来の新車だ。それだけに注目度は高く、7月1日以降もその一挙一動はごく細かな事柄でも報道されるに違いない。当然のことながらよいことばかりではなく、この車両が引き起こすトラブルも大きく取り上げられるはずだ。
 N700系の初期故障として最も可能性が高いのは、何と言っても台車に装着された車体傾斜装置だろう。故障を想定して車体傾斜装置の制御装置は2系統あり、どちらも作動しなかった場合は台車に備えられた自動高さ調整装置が働き、完全にとは言えないまでもまくらばねである空気ばねの高さを調整してやり過ごす仕組みが採用されている。しかし、何ごとにも絶対はないから、規模の大小にかかわらず、トラブルは避けられない。
 かつて華々しく登場した新幹線電車の多くも初期故障に見舞われた。東海道、山陽新幹線の車両として記憶に新しいのは300系だ。なかでも深刻なトラブルはボルトの脱落だった。主電動機を台車に取り付ける部分の塗装膜が厚すぎたため、ボルトを十分に締め付けることができず、抜け落ちてしまったのだ。
 ボルトの脱落は頻発したが、当初JR東海は心配はないという旨の発表を行う。また、大小さまざまな初期故障を大きく報じるマスコミに対し、JR東海がいぶかしげに感じているように受け止められるコメントを出し、同時に鉄道関連のメディアも批判的な見方に転じた。
 だが、もう一度このトラブルの本質を考えてほしい。主電動機を台車に装着するためのボルトが脱落するということは最悪の場合、主電動機が落下する事態に陥る。レールの上に落ちた主電動機の上に超高速で走行する車両が乗り上げたら、どのような事態になるのかは容易に想像できるはずだ。推進軸が落下したため、国鉄のDD54形ディーゼル機関車が何度も脱線したことからもおわかりいただけることだろう。
 鉄道に限らず、自動車、航空機、果ては自転車に至るまで、走行中に部品を落とすことは設計者、整備担当者にとっては最大級の恥とされている。実際、300系がボルトの落下を起こしていたころ、JR東海とは関係のない鉄道事業者や鉄道車両メーカーの担当者が呆れていたことを思い出す。
 今後、N700系にどの程度の初期故障が発生するのかは不明だが、起きることは間違いないだろう。読者の皆様にお願いしたいのは、マスコミで取り上げられるたびに「騒ぎすぎ」あるいは「批判しすぎ」と受け取らず、報道されたトラブルが鉄道事故等報告規則第四条一項八号が規定する「車両の走行装置、ブレーキ装置、電気装置、連結装置、運転保安設備等に列車の運転の安全に支障を及ぼす故障、損傷、破壊等が生じた事態」に該当するかどうかを確かめていただきたい。こうした事態は鉄道事業法第十九条の二の規定により、国土交通大臣に届け出なければならないし、言うまでもなく早急に改めていく必要がある。
 本質的なトラブルを解決することで車両は完成に近づく。また、大きく報じられればされるほど、その時期が早まる可能性は高い。だからこそ、初期故障から目を背けてはならないのだ。


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