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猫の神様


東良美季(とうらみき)、『猫の神様』、新潮社、2007年3月。定価:1200円(税別)。

 タイトルからもおわかりのとおり、本書は鉄道に関して記された書物ではない。当ホームページでは鉄道以外の事柄には触れないと考えていたが、今回取り上げる『猫の神様』は「鉄道ジャーナリスト」のうち、「ジャーナリスト」としての面で非常に示唆に富んだ内容となっている。こうした事情を考慮のうえ、お読みいただければ幸いだ。

 私事ではあるが、筆者は2002(平成14)年4月に飼っていた雌猫を看取った。年齢は19歳だったから、人間でいうと100歳に近い。死は悲しかったものの、大往生ということもあり、それまで病気らしい病気もせず、誇り高く生きたことにある種の尊敬の念も抱いた。
 「喪失の衝撃」をあまり感じなかったとはいえ、ごくたまに老猫のことを思い出すこともある。他の方はどうされているのだろうかとインターネット上を探したところ、出合ったのが本書の著者である東良美季氏のブログ、「毎日jogjob日誌」だった。
 東良氏は2匹の雄猫を飼っており、2匹があまり長い時間を置かずにあの世に旅立っている。その模様が克明に記されていたのだ。
 本書は、「毎日jogjob日誌」に掲載された文章をもとに、2匹の雄猫との出会いから別れまでがまとめられている。内容は決して楽しい事柄ではないのだが、読後感はとても清々しい。実際に起きた出来事ではあるが、あえて感情を抑えた著者の筆力のおかげでファンタジーの世界のようにすら感じられる。アルベール・カミュの傑作『異邦人』を読んで悲しい気分にならないのと同じことなのかもしれない。全くもって恐るべき才能だといえる。
 筆者は「毎日jogjob日誌」を読み進めていくうち、2匹の雄猫との別れをテーマにしたもの以外でも非常に秀逸な文章を書かれている事実に気づいた。率直に申し上げて、抜群にうまい文章に圧倒されたというのが正直なところで、日誌というレベルを超越している。勝手な思い込みで恐縮だが、先ほど引き合いに出した初期のカミュ(の訳文)のように、ほとばしる才気をどこかクールな文体で表現しているかのように感じられた。聞けばプロのライターなのだという。
 東良氏は、不条理な出来事についてもその不条理さをときに冷酷に、ときにドラマチックに記すことができる類い希なる才能に恵まれている。この場合の才能とは天賦のものもあるが、努力によって身に付けたものも相当数に上っていることは言うまでもない。
 後で知ったことだが、コラムニストである勝谷誠彦氏は東良氏を絶賛しておられるのだそうだ。優れた才能が正当に評価されることは我が事のようにうれしい。
 筆者が言うまでもなく、今後の東良氏には小説家あるいは随筆家という道が約束されているはずだ。願わくば、東良氏が鉄道に書いた文章も読んでみたい。間違いなく素晴らしい記事になることだろう。鉄道関係の出版社の編集各位、東良氏の登用をぜひともご検討いただきたい。

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