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青春18きっぷから見たJR旅客会社の現状

8000円はどのように配分されるのか

 2007(平成19)年4月1日、JRが発足してから20年を迎える。これを記念してJR旅客会社6社は2月20日から3月31日までの間、青春18きっぷを8000円で売り出すこととなった。青春18きっぷの価格は通常1万1500円だから、3500円もおトクとなる。
 ここで青春18きっぷについて説明しておこう。このきっぷは1人で5回または5人までのグループが1回、JR旅客会社の全線の普通列車に1日好きなだけ乗ることができる。年間を通じて発売されているのではなく、学校の休みに合わせ、春、夏、冬の3シーズンだけ売り出され、利用期間にも制限が設けられているので注意が必要だ。
 ちなみに、「青春18」とはこの種のきっぷを利用する人たちの年齢が若いということから命名され、「18」とはその中心である18歳を指しているのだという。とはいえ、これは単なるネーミングであり、購入に際しては年齢、職業、性別などの制限は一切ない。
 ところで、8000円の青春18きっぷを購入したとして、売上はどのようにJR旅客会社6社に配分されるのだろうか。
 最も単純な方法は販売した会社が売上を総取りしてしまうことだろう。たとえば、JR東日本の東京駅で購入すればJR東日本に8000円の売上が計上されるという具合にだ。
 とはいえ、このきっぷの特徴はあくまでも「旅客鉄道会社線全線に乗車可能」という点にある。東京駅で購入した人がJR東日本の路線だけで使用するとは限らない。JR旅客会社6社が共同で販売しているのだから、売上を仲良く分配していると考えたほうがよいだろう。
 実際、青春18きっぷの売上は実際の利用動向を踏まえて分けられるという。だが、回収したきっぷの磁気面すべてに利用した経路が記録されているとは限らないだろうし、いくらコンピューターを使って計算するとはいえ、結構な手間を要する。8000円の売上しかないのに、算出に数千円も要していたとしたら商売としては面白くない。
 もう一つ考えられるのは、JR旅客会社6社で取り決めた計算式をもとに配分する方法だ。厳密な数式は秘密事項だろうから、ここは『平成16年度 鉄道統計年報』(国土交通省鉄道局監修、政府資料等普及調査会、2006年3月)に掲載されている2004(平成16)年度のデータから推測することにした。

旅客営業キロと輸送人員をもとにすると公平さに欠ける



 表をご覧いただきたい。筆者がまず考えたのは旅客営業キロをもとにした配分方法である。最も多くの売上を得られるのはJR東日本で3009円だ。反面、最も旅客営業キロの短いJR四国といえども342円を手にすることができる。
 恐らく、このような分け方ではJR東日本は不満に違いない。旅客営業キロと輸送人員とは比例していないからだ。自社の路線には大勢の利用客が乗っているのに、それに見合った収入が得られないという論理である。
 これはもっともな考え方だから、輸送人員をもとに配分してみよう。本来ならば、正確な輸送人員を算出するには普通列車だけの利用者数を調べなければならないのだが、残念ながら『平成16年度 鉄道統計年報』にはこのような数値が掲載されていない。やむを得ないので、JR旅客会社6社とも普通列車以外の列車に乗っている利用客の数を無視してそのまま算出することとした。すると、JR東日本は8000円のうち、68%に当たる5443円を獲得することができることが判明する。
 今度はJR東海から横やりが入ることだろう。旅客営業キロで配分していれば789円を手にできたのに、輸送人員をもとにすると464円とほぼ4割も売上が減ってしまうからだ。
 売上の配分を決めるのだから、JR旅客会社6社の旅客運輸収入の比率に応じて配分してはいかがだろうか。算出の結果、JR東海は2341円を得ることができる。輸送人員で見ていたときの464円と比べると実に5倍もの金額だ。
 旅客運輸収入を基準とした分け方とすると、JR西日本の担当者は頭を抱え込んでしまいそうだ。何しろ、同社が手にすることができる金額は1619円。JR東海よりも695円も少ないからである。JR西日本はJR東海に対し、旅客営業キロで2.5倍、輸送人員で3.6倍も上回っているのにもかかわらず、これではあまりに非情だ。JR東海の旅客運輸収入の大多数は特急券を購入する東海道新幹線の利用客から得ているのでなおさらだろう。

輸送人キロを基準に配分するのはよいのだが、まだ問題が……

 筆者が着目した指標は輸送人キロだ。この指標は輸送人員×利用客1人当たりの平均乗車キロから求められる。輸送の規模を示すと同時にその質も推し量ることのできる重要な数値だ。
 輸送人キロに基づいて配分するとJR西日本は1735円を得ることができる。JR東海よりも68円上回ることができた。
 残る4社への配分を見ても妥当だと感じられる。しかし、JR四国の取り分が50円というのは少なすぎはしないだろうか。何しろ同社の初乗り運賃である160円のわずか3分の1以下だからである。もしも青春18きっぷをJR四国線内で使われてしまったとしたら、同社は大打撃を被ってしまう。同様に初乗り運賃が同額のJR北海道も迷惑に違いない。JR発足20周年という謝恩価格だったとしても困った事態だ。いや、JR発足20周年だからこそ問題なのである。
 JR北海道、JR四国、JR九州の3社は経営基盤が弱い。2004年度にJR北海道は282億4217万3000円、JR四国は78億1225万7000円、JR九州は40億7450万5000円の営業損失を計上している。各社の経営が破綻しないよう、20年前にJRが発足した際、国は3社に経営安定基金を与え、その運用益を営業損失の補填に充当するよう定めた(旅客株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律第十二条、附則第七条第一項)。経営安定基金の額はJR北海道が6822億円、JR四国が2082億円、JR九州が3877億円である。
 筆者は、JR旅客会社6社の営業損益や経営安定基金を考慮してハンディキャップを設けようと試みた。つまり、JR北海道、JR四国、JR九州の3社の取り分を増やし、その分をJR東日本、JR東海、JR西日本の3社で負担してもらおうという案だ。しかし、どの会社も納得できる数式を筆者は思いつくことができなかった。きっとJR旅客会社6社の間でも結論を出すことはできないはずだ。なぜなら各社の格差があまりにも激しいからである。
 青春18きっぷの売上をどのように配分しているのかを考えるだけで、おぼろげながら現在のJR旅客会社6社が置かれている経営環境を理解することができた。この春は国鉄の分割、民営化とは何だったのかを頭の片隅に置きながら、普通列車にお乗りになってはいかがだろうか。


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