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利用客、そして東京急行電鉄の悲鳴が聞こえる話

急行を準急に、その真意とは

 2007(平成19)年1月15日(月)、東京急行電鉄はこの4月5日(木)から田園都市線で新たな混雑緩和策を採り入れると発表(http://www.tokyu.co.jp/contents_index/guide/pdf/070115.pdf)した。中でも注目されるのは、同線の渋谷駅に平日の朝8時台に到着する上り列車28本(急行13本、各駅停車15本)のうち、現在運転されている急行をすべて準急に改めるという点だ。
 急行と準急とを比べると二子玉川-渋谷間での停車駅が違う。前者は途中三軒茶屋駅だけにしか停車しないのに対し、後者は用賀、桜新町、駒沢大学、三軒茶屋、池尻大橋と各駅に止まる。中央林間-二子玉川間の停車駅は同じ。どちらも長津田、青葉台、あざみ野、たまプラーザ、鷺沼、溝の口に停車する。
 急行を準急へと変更する理由は同社のニュースリリースでも述べられているとおり。利用客が急行に集中するために乗り降りに時間を要し、列車が遅れてしまうからだ。すべての列車の停車駅をそろえることで、どの列車にも均等に乗ってもらえる。すると乗降時間もほぼ同じになるので遅れも出にくい。東京急行電鉄はこのように考えたのである。
 同線やこの路線と相互乗り入れを行っている東京地下鉄11号線半蔵門線の状況は確かにひどい。朝のラッシュ時間帯にこれら各線を利用したときの経験から言うと、大体3〜5分は遅れていた。東京急行電鉄と同様に11号線半蔵門線に乗り入れている東武鉄道がよく文句を言わないものだと感心したほどだ。

全国の民鉄中ワースト2位タイの混雑率

 田園都市線の混雑ぶりをデータで紹介しよう。『都市交通年報 平成17年版』(運輸政策研究機構、2006年3月)の260ページから279ページには「主要区間輸送力並びにピーク時及び終日混雑率の推移」という項目が設けられている。ここには首都、中京、京阪神の交通圏で運転されている通勤路線の輸送のあらましが掲載されており、状況の把握に役立つ。
 この路線のデータは264ページに載っている。国土交通省が2003(平成15)年9月30日に行った調査結果によると、池尻大橋駅から渋谷駅までの間が最も混雑する区間だそうで、そのピークは田園都市線の場合は午前7時50分から午前8時50分までの間だったという。この間、28本の列車が運転され、通過した車両の総数は280両、1列車当たりの編成両数は10両。280両の車両の定員の和で求められる輸送力は4万1272人であり、これに対して利用者の数は8万686人、混雑率は195%だ。
 国土交通省や日本民営鉄道協会は200%の混雑率について、「体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める」と発表している。後半の肯定的な文面に惑わされてしまいがちだが、相当な混雑を覚悟しなくてはならない。何と言っても、「主要区間輸送力並びにピーク時及び終日混雑率の推移」で取り上げられている民鉄のうち、田園都市線の混雑率はワースト2位タイ(湘南モノレール江の島線の富士見町→大船も195%。ワースト1位は東京地下鉄東西線木場→門前仲町の198%)をマークしているからだ。ちなみにJRも含めた混雑率ワースト1位はJR東日本の京浜東北線上野→御徒町の225%である。

なぜ列車の増発や増結ができないのか

 さて、ニュースリリースを見る限り、朝のラッシュ時に田園都市線の列車が増発されるのかどうかが明らかにされていない。同社に問い合わせてみると、本数はいまと同じままなのだという。つまり、今後とも1時間当たり28本の列車で朝のラッシュ時を乗り切ろうと考えているのだ。
 現在、田園都市線の列車は朝のラッシュ時に平均2分9秒間隔で運転されている。これは東京急行電鉄が採用している運転保安設備の限界値でもある。田園都市線で用いられている一段ブレーキ制御方式の自動列車停止装置(ATC)は最小運転間隔を2分10秒として設計された。したがって、これ以上増発することは不可能なのだ。
 とはいうものの、やれと言われればあと2本くらい列車を増やせるかもしれない。だが、運転時間は確実に増えるし、何よりも危険だ。また、列車の本数が増えたところで乗り降りに時間がかかれば遅れてしまうのだから、これまでと同様に1時間に28本しか運転できないのかもしれない。
 それでは、10両編成の列車を11両や12両編成にしたらどうだろうか。こちらはさらに難しい。何しろホームの長さを延ばさなくてはならないが、地下駅の渋谷-桜新町間や11号線半蔵門線の各駅では大改造が必要だ。
 列車の長さが増えるので1本の列車が占有できる軌道回路(「列車又は車両を検知するために,レールを用いる電気回路。」、JISE3013の番号7001)の長さも変えなくてはならない。正確な数値はわからないが、現在の田園都市線の軌道回路長は10両編成の長さである200mに対して50m程度の余裕を設けた250m前後だろうから、1両当たり20mの長さの車両を1両増結すれば270m、2両増結すれば290mに延ばす必要がある。スピードアップでもしない限り、軌道回路が長くなれば運転間隔も開くから、運転本数は減ってしまう。つまり、1列車当たりの輸送力は向上しても、1時間当たりの輸送力で見れば逆に減少する可能性もあると言えるのだ。
 東京急行電鉄はホームページ上(http://www.tokyu.co.jp/railway/railway/mid/oshirase/den-en-toshi-taisaku.htm)で「現在の状況では、これ以上運転本数を増やすことは難しい」と記している。これは同社の正直な心境だろう。日常的に田園都市線のラッシュを経験している筆者の知り合いは、「毎日が(有名な神社や仏閣での)初詣のようだ」と語っていた。大変お気の毒としか言いようがないのだが、すでに東京急行電鉄が立てるべき策は尽きてしまった。あとは複々線化といった抜本的な改革しか残されていない。


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