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安全は守られるがお客さんは迷惑する

「未来へのシグナル〜JR羽越線脱線事故の今〜」でのコメント

 当ページでも予告したとおり、2006(平成18)年12月25日(月)にさくらんぼテレビ(山形県)で報道特番「未来へのシグナル〜JR羽越線脱線事故の今〜」が放映された。2005(平成17)年12月25日19時15分ごろに羽越線砂越-北余目間で発生した「いなほ14号」の脱線転覆事故を検証する番組だ。2部構成となっており、荒天時における鉄道の安全運行についての課題、そして大規模災害時の救急医療体制の検証が丁寧につくり込まれていた。深夜の視聴となっても構わないので、ぜひとも全国ネットでの放映を望みたい。
 番組中、鉄道に関連してコメントを行っていた方々を登場順に挙げると、金沢工業大学の永瀬和彦教授、羽越本線の列車の運転の経験のある国鉄の元運転士(匿名)、国土交通省鉄道局の西村大司課長補佐、JR東日本安全対策部の牛島雅隆部長、東北大学大学院の小濱泰明教授である。そして、最後に発言したのは筆者だ。
 筆者のコメントは2カ所に分けて放映された。内容をかいつまんで紹介しよう。遠隔地で管理するCTC(列車集中制御装置)の死角についての指摘が一点。もう一つはタイトルにあるとおりだ。安全を期して運転の打ち切りなどの規制を早めにすべきだが、そのことでかえって利用客(番組ではお客さんと発言)が迷惑することから鉄道事業者は規制に慎重になっているという趣旨である。
 それぞれのコメントについて補足してみよう。まず、事故現場付近の羽越線を管理していたCTCは約160km離れた新潟駅に設けられていた。このようなことは別に珍しくはない。東海道、山陽新幹線に至っては1000km以上離れた博多駅の状況も東京駅に設置されたCTCで管理している。とはいえ、遠いから危険で近いから安全というものでもない。現場の状況を正確に把握するためにどれだけ投資しているかによって左右されるのだ。
 東海道、山陽新幹線では晴天であっても線路沿いを係員が随時巡回している。しかし、羽越線ではそのようなことは行っていない。コスト面でとても見合わないからだろう。
 2つ目のコメントについては、1986(昭和61)年12月28日(日)に山陰本線鎧(よろい)-餘部(あまるべ)間にある余部(あまるべ)橋梁で発生した回送列車の転落事故後の状況を頭に思い浮かべての発言である。事故が発生するまで余部橋梁は風速25mで運行停止となっていたが、事故後は風速20mへと規制が強化された。この結果、列車の運休や遅延が多発し、温泉地でもある地元から国鉄、JR西日本に対してクレームが寄せられてしまったのだ。
 仮に風速20mの強風をついて列車を運転したとしても、無事に余部橋梁を渡ることができるかもしれない。だが、走行中に風の勢いが強まったとしたらどうなるだろうか。

羊蹄丸、渡島丸の船長の判断は正しかったが……

 利用客に迷惑をかけたとレッテルを張られた日本国有鉄道(以下国鉄)の職員が一夜にして「救いの神」となった事例を紹介しよう。いまから53年前の1954(昭和29)年9月26日(日)夜半、国鉄最大の事故が発生する。青森港へ向けて函館港を出発した青函連絡船洞爺丸が台風15号に遭遇し、函館港内で転覆。乗客1041人、乗組員73人、その他の者41人の合わせて1155人が死亡する大惨事となった。さらに、当日は青函連絡船の十勝丸、日高丸、北見丸、第十一青函丸も函館港付近で転覆、沈没し、合わせて乗組員275人が死亡している。亡くなった人たちの合計は1430人。1912(明治45)年4月14日(日)にイギリスのホワイトスター社が保有するタイタニック号が大西洋上で氷山に衝突して沈没し、死者、行方不明者1517名を出した事故に次ぐ。鉄道事業者でありながら、国鉄は世界で2番目の海難事故を起こしてしまったのだ。
 1954年9月26日の16時ごろ、青森港では客貨船の羊蹄丸(16時30分発)と貨物船の渡島丸が函館港への出航を見合わせていた。台風15号は通過したものの、このまま出航しては津軽海峡上で遭遇することになると船長が考えたからだ。
 この時点で青森市の天候は回復基調にあったため、羊蹄丸に乗船するはずだった利用客の多くは船長の決断を歓迎しなかった。文句を言う者さえもいたという。しかし、翌朝になって函館湾で起きた大惨事を耳にし、命の恩人だと感謝する。転覆した洞爺丸からは奇跡的に159人が救助されたが、津軽海峡上で台風15号に遭遇したのなら1人として助かった人はいなかっただろう。
 もっとも、羊蹄丸、渡島丸双方の船長とも自らを英雄だとか救いの神だなどとは全く思わなかったに違いない。というのも、夜半に入り、函館港側の連絡船が次々に無線電信による遭難信号を発信するのを聞き、大いに困惑し、嘆き、悲しんだであろうからである。そこには自らを英雄視する気持ちが入る余地などない。

 今回の話はここまでだ。安全を確保するためには判断力が重要だということが理解できたが、実際にどのような判断を下すべきかは非常に難しい。もちろん、何が正しいのかははっきりしている。事故を起こさない、事故に巻き込まれないことが絶対に正しいのだ。


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