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『JNR EXPRESS』


結解学、『JNR EXPRESS』、ネコ・パブリッシング、2006年7月。定価:2800円。

 書店をのぞいてみると、いまや鉄道関係の書棚は懐古物によって占められようとしている。取り上げられている年代としては高度成長期あたりが中心と言ったところだろうか。
 貴重な経験をもとに書かれているため、「いまと比べて昔はよかった」といった通り一遍の結論となっていない点が好ましい。実際に体験していたら、いや当時を知らなくても少々調べれば、すべてがバラ色に輝く時代だったとはお世辞にも言えないからだ。
 ところが、出版する側にとっては懐古物は金の卵なので、あまり批判的な口調で語ってほしくないと考えている。筆者にはそれが気にくわない。この手の本を読むと、意味の通らない文章に出くわすことがある。恐らく、執筆者の意向をねじ曲げて編集者が訂正してしまったのだろう。「過去はあくまでも美しい」ものとして書かなければならないのだろう。
 今回取り上げたいのは『JNR EXPRESS』(結解学、ネコ・パブリッシング、2006年7月)である。「昭和50年代を駆け抜けた国鉄特急・急行列車たち」という副題のとおり、昭和50年代の懐古物だ。
 本書は、1975(昭和50)年と翌1976(昭和51)年に撮影された国鉄の優等列車の写真を中心とし、当時の状況を的確に記した文章をあしらった構成となっている。日本鉄道写真作家協会会長を務める著者だけに一枚一枚の写真は素晴らしい。
 また、本書で取り上げられた特急列車と急行列車がどのように連結されていたのかも描かれているから、見ているだけても楽しくなる。記述されているように鉄道模型で再現したいという向きには最適だろう。
 例によって編集方針はあまたある懐古物と大同小異だ。編集者が作成したと思われる小見出しやキャプション類には妙な文面が多い。しかし、本書の写真や文章からはそうした編集方針とは明らかに異なった主張を感じ取ることができる。
 このころの国鉄の在来線といえば、線路は混み合い、車両は慢性的に不足気味だったにもかかわらず、多くの利用客が押し寄せていた。鉄道の黄金時代と言ってしまえばそれまでだが、当事者にとって現実とはそのような甘いものではない。そうした事実を現代に伝えようとする著者の強い意志がどのページからもうかがい知ることができる。
 本書を最も象徴しているのは表紙の写真だ。ここにはいまでも北陸線の特急「雷鳥」として活躍中の電車を用いた特急「かもめ」の写真が使われている。しかし、主役となる車両に刻まれた傷や汚れは廃車寸前の姿と言ってもよいほどのくたびれようだ。いまと比べると、当時は車両の整備や清掃が行き届いていなかった。いや、人手不足、労使関係の悪化、膨大な額の赤字などによってできなかったのだ。そうした背景がうまく表現されていると思う。
 趣味的な要素が強いため、どなたにでもお勧めできる内容ではない。とはいえ、鉄道愛好家だけでなく、昭和50年代前半の特急列車や急行列車の姿を学びたいという方々にも最適だ。

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